「退いてください」
「退かねぇ」
張り詰めた空気が辺りに漂う。部屋の中にいる隊士達が、ただならぬ空気を感じ取って颯爽と部屋を出ていこうとする。
逃げるにも逃げ出せない立場にいる雪は、心の中で彼らを恨んだ。
「だから、俺は一緒に戦うと言ったんだ。……せめて、傍にいさせてくださいよ!」
土方の胸倉を掴み、顔を近づけた沖田は叫ぶ。
初めて見る彼の怒りに震える姿に、雪は唖然として動き出せなかった。
沖田の望みが、あまりにも今の雪に置かれている立場に一致しすぎている。彼もまた、置いていかれることを恐怖しているのだ。
「俺は新撰組、一番隊組長です。死ぬなら、こんな狭い場所じゃなくて戦場で散る」
「もう死ぬ気か? 組長なら、抗ってみせろよ」
決して、生きていてほしいとは言わなかった。
それが何を意味しているのか定かではない。それでも、土方はすでに分かっているのだ。
沖田の病は治らない。いつかは刀を握られなくなり、戦場どころか床からも出られなくなる。
だから、ほんの少しだけでも生きていてほしい気持ちを隠すしか無いのだ。
「総司。近藤さんと大坂に行け」
淡々と下されたその命令は、沖田の誠を打ち壊すには十分すぎた。
「……用済みってことですか?」
「休めっつってんだ。今のてめぇは、身体を治すことだけに集中し───」
「言えばいいだろ!」
身体を押しやるように土方の胸倉を離し、額を抑える沖田は苦々しい表情を浮かべた。
目の前で繰り広げられる言い合いに、雪と山崎は何をするでもなく傍観する。
二人の間に割って入る度胸など持ち得ていなかった。
「言えば、いいじゃないですか……。病人はいらないって」
「違ぇ」
「貴方も分かってるんでしょ? 俺の身体はもう治らない。戦場に出れば無駄死にするって」
「違うつってんだ」
奥歯を噛みしめる音が聞こえるくらい、部屋の中は静まり返った。
目を逸らす沖田を前にしても、土方は表情一つ変えずに彼を見つめ続ける。
そこに怒りも悲しみも何もなく、ただ、新選組副長としての態度を保ち続けていた。
少なくとも、雪には背中しか見えないながらに感じられた。
「言ったって、俺が聞かないことくらい分かるだろ? そうやって、権力使って言い聞かせようとすることくらい、端から分かってる」
「なら、自分がどうするべきかくらい理解しろ。権力使わねぇと聞かねぇから、こっちは使ってんだ」



