想いと共に花と散る

 戦況は悪化する一方だった。
 近代的な銃や大砲を使う新政府軍は、容赦なく旧幕府軍を打ちのめしていく。
 刀一本で立ち向かう新撰組は、成す術もなく犠牲者を増やしていくだけだった。
 それでも撤退をする気はないと土方は言い張り、雪達は彼の指示に従う。
 日中はそんな事がいつまでも続き、落ち着いて気を緩められるのは短い夜の間だけだった。
 この日も疲弊した体を休めるために、雪は部屋の端に座り込んでうつらうつらと船を漕ぐ。
 意識がぼんやりとして、そろそろ眠りにつこうかという時に、突然夜の静けさを打ち壊す叫び声が奉行所に響いた。

「狙われた! 局長が、撃たれたんだ!」

 雪の意識は一瞬に冴え渡った。勢いよく立ち上がると同時に、何人もの隊士達が何事だと動き出す。
 久々に見た近藤の姿は、目も当てられない悲惨な状態だった。

「肩にまだ弾丸が残っている」
「早く取り出さねば手遅れになるぞ」

 奥座敷に運び込まれた近藤は、布団の上でぐったりとした様子だった。
 山崎が肩に残っているという弾丸を取り出すために布団の傍に座り、雪も手伝うために隣りに座る。
 二人の間に会話はない。
 ただ冷静に、淡々と近藤の怪我の手当を無言でするだけだった。

「もう無理だ! 向こうは局長を狙ってきたんだ。俺達は、本当に限界なんだよ!」

 昏睡状態の近藤を前に、隊士達は土方へ撤退の指示をするように訴え始める。
 壁に背を預けて立つ土方は、今までに見たことのない苦しげな表情を浮かべていた。

「近藤さん……。死んじゃ、駄目ですっ……!」

 手を握れば微かに温かみがある。けれど、どれだけ強く握っても握り返してくれることはなかった。
 目に見えて隊の士気が落ちたのを感じる。
 長である近藤が戦えないと分かり、皆の覚悟が揺れ動き始めたのだ。
 諦めの空気が滲んでいた、その時。廊下の向こうから激しい足音が聞こえてきた。

「……近藤さん!」

 勢いよく襖を開けて入ってきたのは、もうずっと顔を見ていなかった沖田だった。

「総司っ!? てめぇ、何勝手に出てきてやがんだ!」
「近藤さんが撃たれたと聞いて、黙ってられますか!?」

 沖田が入ってきた入口のすぐ傍にいた土方は、立ち塞がるように沖田の前に立った。
 互いに苦痛に歪んだ表情を浮かべ、視線の間に火花が散る。