想いと共に花と散る

 仲間だと言うのなら、連れて行ってほしかった。
 自分にできることがあると言うのなら、共に戦いたかった。

「私には、時間がないの!」
 
 騒がしい怒号か消えて、鳥が飛び立って、辺りが静まり返る。
 雪の叫び声は、山崎だけでなく奉行所内で群がる隊士や旧幕府軍の者達にも届いていた。
 視線が突き刺さる。大勢から見られていることが、返って雪の焦燥を掻き立てた。

「……どういう意味や」
「そ、そのままの意味ですっ!」

 最早、ヤケクソになっていたように思う。
 ずっと感じて違和感は、少しずつ雪という存在を蝕んでいるのだ。

「冗談やったら承知せんぞ」
「違います」
「それにしたら、随分と笑えん」

 冷静沈着で、監察方という立場であるからか感情を表に出すような人ではない。
 それでも、今だけは怒りに打ち震える山崎がいた。
 何に対する怒りなのか曖昧でありながらも、腹の底からは怒りが湧き上がる。
 発散する方法なんて、分かるはずもなかった。

「もう、放っておいて!」
「あっ! 待ちぃ!」

 確かに伸ばしたはずの手は、雪の手をすり抜けて宙に浮いた。
 庭を駆け抜けて逃げ出す雪の背が透けて見えたのは、気の所為なのか。

「ど、どういうことや……?」

 連日の戦闘によって疲弊しているだけ、それだけで理由付けすることはできる。
 しかし、何かが決定的に違う。
 疲弊でも、動揺でも、焦燥でも、憤怒でもない。
 おかしいのは、異常なのは、山崎ではなく雪なのだと。

「山崎監察! 銃弾を受けた者の手当を!」
「……あ、ああ!」

 何人気付いている。何人知っている。
 まさか、あの事に気づいているのは自分だけではあるまい。
 
(透けた? 空振ったわけではないはず……俺は確かに、手を引こうとした)

 雪は一体何を隠しているのだろうか。
 山崎が新選組に入隊した時には、すでに副長である土方の小姓として存在していた雪という少年。
 辻斬りの一件で実は女子であることが判明したが、それは今はどうだっていい。
 今重要なのは、雪が何処からやって来たのかということ。

「山南さんやったら、何か気ぃついとったんか……」

 脱走する前から時折見せていた不自然な行動が幾つも思い出される。
 何かを避けるような、何かを探しているような、不安げな様子。
 怪我を追って前線を離れてから、山南はいつも自室に籠もって何かを読みふけっていた。
 仮に、山南が雪に対しての違和感に気づき原因を探っていたとしたら。

「私物、見てみるか」

 小さな手がかりでも見失わないのが、監察方山崎烝としてのあり方だった。