想いと共に花と散る

 この日、雪は初めて新撰組に付いて来たことを悔いた。
 ぼやける視界に映るのは、小さな手が握る血塗れの包帯。

 ────パアンッ!

「っ……! うぅ……」

 何度目かも分からない発砲音が伏見奉行所内に響き渡る。
 戦いが始まるのはあっという間だった。

「斎藤! 隊を引き連れて先に行け!」
「御意」
「俺達はどうすりゃいい!?」
「原田、てめぇも行け! 俺は後から追う」
「了解!」

 半ば強制的に西本願寺から離れることを余儀なくされた新撰組は、小さな伏見奉行所で大人数の隊士を抱えていた。
 屯所を移るとほぼ同時に、新政府軍と衝突。
 それにより、本格的な戦争が始まっていた。奉行所の中には、戦いによって負傷した隊士で溢れ返っている。

「小僧! こっちに包帯くれ!」
「は、はいっ! 今行きます!」

 手が痺れてきた。誰のものか分からない血で手が汚れても、洗う暇など何処にもない。
 伏見奉行所へと移ってから、雪は四六時中怪我人の手当に明け暮れていた。
 壁際に蹲る隊士の前に膝を折り、敵なのか自身のものなのか判断できない血に塗れた腕に包帯を巻いていく。
 何重にも巻いて固定すれば、その隊士はすぐさま立ち上がり戦場へと向かっていった。
 引き止めれば、ほんの少しでも生き延びられる。けれど、新撰組として生きる限り戦場に出なければならないのだ。

「土方さん! もう限界だ! ここもいずれ攻め込まれるぞ!」
「撤退はしねぇ」
「はあ? 何を言っているんだ!?」

 広間に飛び込んできた永倉は、土方の発言に目を剥いた。
 殺伐とした状況の中で、土方は座った目をするだけ。発言を撤回するつもりは毛頭なかった。

「何とか持ちこたえろ」
「とは言われてもだな! ……ちっ、薩摩と長州がそこまで来ているというのに」
 
 限界はすぐそこだぞ。そう言い残して永倉は走り出す。

 ────パアンッ、パアンッ!!

 高台から放たれた砲弾が飛び交う戦場。血の匂いに満ちる奉行所。
 何処をどう見ても、雪がいる場所は地獄そのものだった。
 銃、大砲などの武器を使う新政府軍に対し、新撰組を含む旧幕府軍は刀で立ち向かう。
 勝てる見込みなんて無かった。
 
「雪! 怪我人だ!」
「はい!」
「水はねぇか!? 何でもいいから布をくれ!」
「はい! すぐに!」

 皆、限界だった。
 次から次へと怪我人が運ばれてくる。刀傷のみならず、ほとんどの隊士は砲弾によって負傷していた。
 銃弾を取り出せるほどの腕を持っているのは、新撰組の中では山崎だけだ。
 戦場に立つことのない雪にできるのは応急処置程度。良くて止血ができるくらいだった。