想いと共に花と散る

「出てこい」

 玄関口に土方の低く抑揚のない声が響く。二人の隊士は顔を見合わせて小首を傾げた。
 すると、玄関口付近の影の中から恐る恐る一人の少女が現れる。首に包帯を巻いて、裸足に見慣れない服装をした、なんとも怪しい少女だ。

「あっ、君は……」
「ん? 誰だよこいつ。てか何、総司知ってんの?」
「まあね。首に怪我をしてたから手当をしてやったんだよ」

 土方が呼び出した隊士の中に顔見知りがいることに雪は安堵した。
 彼は首の刀傷を手当してくれた親切な人という印象が雪の中で出来上がっていたからである。

「それで土方さん。詳しいことって何なんです? 聞かずとも何となく察せますけど」

 傷の手当をしてくれたあの青年は、土方の背後に隠れるように立つ雪を光のない冷たい瞳で見下ろした。
 その視線により、先程まで雪の中にできていた親切な人という印象が崩れ落ちる。
 やはり彼もまた土方と同じで、その気になれば簡単に人を斬ることができるのだろう。見目こそ好青年であるが、その腹の底は図り知れない。
 
「話せば長くなるんだが……。単刀直入に言うと、今日から俺の小姓として傍に置くことになったんだ。そこで、お前達にはこいつの袴やらなんやら必要なもんを買いに行ってほしい」
「は? こ、小姓だって?」
「ちょっと待ってくださいよ。小姓って言う前に、この子女の子でしょう?」

 分かり切っていたことだが、やはり二人の隊士は土方の発言に驚いた様子であった。
 一人は先程も顔を合わせたため冷静さをなんとか保っている。しかし、もう一人はこの状況を上手く飲み込めていないようだ。
 そんな二人を目の前にしても土方は詳しいことを語ろうとはしない。
 
「さっきも言った通り、事情があんだよ。どうしても気になるってんならこいつから直接聞け」

 一方的に話を切り上げた土方は、傷の手当をしてくれた方の隊士に金が入った袋を渡してその場を去っていく。
 三人はぽかんと口を開けたまま去りゆく土方の背中を眺めた。
 やがて彼が屋敷の中に消えると、何も語ること無く三人で顔を見合わせる。

「なんだよこれ……どういう状況?」
「わ、分からない……」

 すんなりと雪のことを受け入れた近藤とここまで連れてきた土方が異常なだけで、本来であればこの二人の反応が正常であった。
 見知らぬ少女が突然現れ、その上小姓だのなんだの大した説明もされずに押し付けられたのだから。