想いと共に花と散る

 夜空に満開の花が咲いた。大きな音を立てて広がる花は、瞬きをすると消えてしまう。
 けれど、次から次へと咲き乱れるから、いつまでも目に焼き付いて離れなかった。

『花火、見逃すぞ』

 花火の灯りに照らされた横顔が悲しげに見えたのは、きっと気の所為ではない。
 あの時、藤堂は何を言ったのか。雪に何を伝えたかったのか。
 知ろうとすれば知れたことを知らぬままにしてしまった。
 それがどれだけ愚かで、藤堂の心を抉ったのかなど想像すらできない。

『こんな傷を負うようなヘマする奴が、何を守れるってんだ』

 一生消えない傷を負ったのは、何も守れなかったからじゃない。
 
『心のどっかで、お前のことを弟みたいに見てたのかもなぁ。本当は、違うのに』

 兄として強くあるため、弱い存在を守るために戦ったからこそ負った傷だった。
 本当に消えなかった傷は、自分自身を信じず疑い続けた心だったのだ。

「もう一つ、伝えておかないといけないことがある」
「……っ、あ………」

 背中に回していた手を後頭部へと回し、腰よりも長い黒髪をそっと撫でた。
 静かに落ちる沖田の声が雪の胸の奥を突き刺す。
 彼が発する一言一言から後戻りのできない覚悟を痛いほど感じた。

「好きだったんだってさ」

 たった一言。紙の上に書かれた文字を読んだだけのような、抑揚のない声。

「……気のせいじゃ、なかったんだぁ」

 夜空に花火が広がる下で聞こえた気がした言葉は、気の所為などではなかった。
 藤堂が発した通りの言葉で確かに聞こえていて、本当はしっかり届いていたのだ。

「嘘、かと思っちゃった……そんなこと、言うわけないって…私から、突き放しちゃったっ!」

 聞き返したりなどしなければ、ちゃんと聞こえていると言えていたら。
 
「ごめん、ごめんなさい。平助君、ごめん……うわあああ!」

 泣いたって彼がもう一度笑ってくれる日は来ない。そんなこと、ずっと分かっている。
 それでも、もっとこうしていればと後悔ばかりが押し寄せてきた。
 沖田の腕の中で声を上げて泣いて、喉が擦り切れるほど叫んでも、藤堂の声は何処からも聞こえない。

「謝るのは、俺の方だよ。雪は、何も悪くない」
「嫌、嫌あ! 行かないでよぉ! まだ、お兄ちゃんって、呼んでない……助けてくれたお礼、言ってないよ!」

 ほんの少し前に夏祭りに行ったばかりだったはずだ。
 リンゴ飴と焼きとうもろこしを食べて、金魚すくいをしたけど上手くいかなくて笑って。
 転びそうになったところを支えてくれて、花火が綺麗に見える穴場に連れて行ってくれて。
 全部、初めて見る景色だった。初めての経験だった。
 これが幸せなんだって、本気で思えたのに。

「……平助」

 部屋に雪の泣き叫ぶ声が響き渡り、沖田の呟きを掻き消していく。

「お前は、立派にお兄ちゃんをしてたよ」

 離れないように、壊れないように強く抱き寄せ、沖田もまた静かに嗚咽を漏らした。