想いと共に花と散る

 真夜中に帰ってきたその人は、血だらけの刀を握ったまま部屋の障子を開けた。
 結い紐が切れたのか、肩の上に髪が乗っていようと顔に張り付いていようと払わない。
 そんなことにすら意識が回っていないようだった。
 
「……ただいま」
「総司君……っ!」
 
 布団の上から立ち上がって彼の元に駆け寄れば、血に塗れた刀を放って抱き付いてくる。
 羽織に付着した血が雪の頬を汚そうが、沖田は何も言わずにただ強く抱き締めた。
 
「ど、どうしたの? 怪我してる、手当しないと」
「……ああ」
「だから、は、離して……手当できない」
「……ごめん」

 ゆっくりと紡がれる言葉の一つ一つが弱々しく、このまま離れてしまうと崩れてしまいそうだった。
 雪は、裂けた羽織の奥から覗く沖田の肩へと視線を移す。
 すでに血は固まっているようだが、刀傷が深く刻まれていた。

「もう少しだけ、こうさせて……」

 そう言うや否や、雪の身体に沖田の全体重が乗った。
 流石に成人男性の身体を一人では支えきれない。耐えかねた雪は、その場に崩れるように座り込んだ。

「もしかして、苦しいの? それとも怪我が痛む?」

 背中に手を回して問い掛ければ、沖田は力なく首を振った。
 そして、雪の首元に埋めていた顔を上げると、羽織の裾に手を入れて中を弄る。
 ようやく離れた沖田は、雪に向き直って手にする“それ”を差し出した。

「……え?」

 わけが分からなかった。
 何故、“それ”を沖田が持っているのか。“それ”の持ち主の姿が何処にもないのか。
 
「言伝を預かってる」

 目の前の景色が霞んだかと思えば、ぐらりと歪んだ。それが溢れる涙によるものであると気づくのは、次の言葉を聞いた時だ。

「平助は、君の兄になれた?」
「……ぁ……うぁ……」

 血塗れの藤堂のバンダナを握り締めて、雪はその場に蹲った。
 バンダナがここにある。雪の手の中にある。それだけで、終わってしまったのだと知るには十分すぎた。

「平助、言ってたよ」
「うぅ……うぐっ………な、んて?」
「“幸せになれ”」

 目から溢れ出した涙が顎先から滴り落ち、握ったバンダナの上に落ちる。
 もう、声を出すことすらできなかった。
 沖田がもう一度抱き締めてきても、鼻を突く血の匂いがしても、雪は嗚咽を漏らした。

「や、嫌だ………なんで……なんで!」