想いと共に花と散る

 風を裂く音が遅れて耳に届く。その次の瞬間、刃と刃が真正面からぶつかった。
 乾いた金属音が夜を震わせる。
 藤堂の太刀は真っ直ぐで、迷いがない。沖田の剣は軽く、鋭く、相手の呼吸を読むように滑り込む。

「……やっぱ、強ぇな」
「今さら?」

 言葉と同時に、沖田の刃が角度を変える。
 藤堂は身を捻り、紙一重で躱すが羽織の端が切り裂かれた。

(速いな……くそっ)

 病を抱えた身体だというのに、その剣は衰えていない。
 むしろ、削ぎ落とされた分だけ無駄がなかった。

「遠慮すんなよ、総司!」
「してないさ」

 沖田の笑みは、もういつものそれではなかった。
 楽しげでも、無邪気でもない。ただ、決めにきている目。
 藤堂は踏み込む。力任せではない。試衛館で叩き込まれた、基礎に忠実な太刀筋。
 沖田はそれを受け流し、距離を詰める。

「懐かしいな……前もやったよな」
「あの時は手合わせだろ。今は……」
「真剣勝負、だな!」

 刀と刀が擦れ合って火花が散る。
 地を踏む足音が重なる。
 動くほどに息が荒くなる。

(これでいい)

 藤堂の胸にあった迷いは、いつの間にか消えていた。
 伊東を置いて逃げた後悔も、雪への想いも、全部ここにある。

「ねぇ、平助」
「なんだよ!」

 沖田の声が、刃越しに落ちる。
 圧倒的な技量の差に苦しむのは、この場では藤堂だけ。
 かつて、壬生に新選組の屯所があった時。壬生寺の境内で二人は手合わせをしたことがあった。
 どういうわけか、雪が物陰に隠れて見学していたのは気になるところではあるが、負け試合にも関わらず立ち上がったのは雪が見ていたからだ。
 沖田もまた、雪が見ていたことに気付いていた。だから、藤堂相手に手加減も遠慮もしなかった。

「俺、後悔してない」

 その言葉と同時に、沖田の太刀が深く踏み込んだ。
 藤堂は反射的に受けに回る。
 だが――……ほんの一瞬だけ遅れた。
 鈍い衝撃を感じた直後、横腹の辺りに熱が走る。
 藤堂の脇腹を、沖田の刃が浅く裂いていた。血が滲むが、致命傷ではない。

「……っ、やるじゃねぇか」
「そっちこそ」

 沖田の息が、僅かに乱れている。それでも目は逸らさない。