想いと共に花と散る

 斎藤の報告が終わると、部屋の中はしばし沈黙に包まれた。
 誰も動かない。誰も口を開かない。だが、その沈黙は迷いではなかった。
 重く、張り詰めた空気が、畳の上にじわりと沈殿していく。
 最初に動いたのは、土方だ。

「……分かった」

 低い声でそう言い、ゆっくりと立ち上がる。
 袴の裾が畳を擦る微かな音が、不思議なほど大きく響いた。
 感情を削ぎ落としたその声音に、幹部達は自然と背筋を伸ばす。
 ここにいる誰もが理解していた。
 今の一言は、確認ではない。判断であると。

「御陵衛士は、もう仲間じゃねぇ」

 はっきりとした断言だった。
 誰かを説得するための言葉ではない。
 これは、局中法度を預かる副長としての結論であり、命令でもある。
 かつて同じ名を背負い、同じ場所で刀を振るった者達。
 その過去を、切り捨てるような言葉だった。

「近藤さんを狙う以上、見過ごすわけにはいかねぇ。……始末する」

 その一言で、全てが決まった。
 否、正確には“決めていたことを、口にした”だけなのだろう。
 原田が、畳の上で拳を握り締める。
 骨が鳴るほど強く、しかしその表情に迷いはない。

「……やっぱ、そうなるか」

 苦い笑みを浮かべながらも、声は揺れていなかった。
 冗談めいた調子の裏に、押し殺した感情が滲む。
 覚悟を決めた人間の顔だ。

「俺が行く。永倉もだろ」

 半ば確認するような言い方だったが、答えは分かっている。

「当たり前だ」

 永倉は短く答えた。
 余計な感情を挟まない。その淡々とした態度が、かえって重い。
 二人とも、伊東たちと剣を交えたことがある。
 同じ釜の飯を食い、背中を預けた夜もあった。
 それでも、刃を向ける覚悟は、もう腹の底で固まっていた。
 土方は一度、視線を落とす。
 誰よりも情を知っているからこそ、誰よりも非情であろうとする男の横顔だった。

「斎藤」
「はい」
「引き続き内情を探れ。動きがあれば、すぐに知らせろ」
「承知しました」

 斎藤は一切の感情を表に出さず、静かに頷く。
 裏切り者の中に身を置き、再び刃を向けることになると知っていても、躊躇はなかった。
 淡々と命令が飛び、淡々と受け取られる。
 その様子は、あまりにも“新撰組”だった。
 誰かを斬るためではなく、組織として生き残るために迷いを切り捨てる。
 それが、この集団の在り方だった。
 部屋の中に、再び沈黙が落ちる。
 だが、先ほどとは違う。この沈黙は、嵐の前触れだ。
 もう、引き返せない。
 誰もがそう理解しながら、次に動くべき時を待っていた。