想いと共に花と散る

 これまでの言葉や行動を思い返すと、伊東はいつも後方から戦場を傍観しているだけ。
 隊士達、近藤のことを戦場に立つ駒として見ているのではないかという疑念が湧き上がった。
 そんな近藤の言葉を聞いた伊東は、一瞬だけ笑みが消す。
 だがすぐに、仮面を貼り付けた穏やかな笑みを浮かべた。

「いいえ。そんなこと思っているわけがないではないですか」

 そう言いながらも、近藤から視線は逸らさない。
 静かに舐め回すような視線をゆっくりと動かした。

「ただ、人は——……掲げるものがなければ、いずれ迷うもの。迷った末に折れるか、壊れるか、あるいは暴走する。私は、それを防ぎたいだけですの」

 だからこそ、誠の旗を立てるべきだ。伊東はそう言葉にせずとも近藤に伝えようとした。
 誰よりも志を強く持ち、そして志に振り回されている彼だからこそ、言わずとも伝わると信じて。

「……俺はな」

 しかし、そんな伊東の理想は、伝わる前に空気に溶けて消える。
 一瞬の言葉が伊東の心を地の底に押さえつけた。無意識の内に扇子を握り締め、表情を引き攣らせる。
 その伊東の変化から目を逸らした近藤は、ゆっくりと言葉を選んで言った。

「正しさよりも、生きていてほしいんだ。それが“甘い”と言われても構わない」

 もう一度伊東に向けられた目は、新撰組局長としてではなく、一個人の淡い願いに満ちていた。
 近藤の曇りのない憂いを帯びた視線に見つめられる伊東は、その言葉を聞いて目を伏せた。

「……やはり、近藤さんは優しい」

 ぽつりと零れた言葉は、何処か気怠げで諦めが溢れ出ていた。
 しかし、伊東もまた新撰組隊士であり、近藤の右腕である参謀を担っているのだ。
 発される言葉の表面は曖昧でも、その芯は確かに通っている。

「その優しさが、羨ましいとすら思いますわ」

 だが、次の瞬間に顔を上げた伊東の目には、確かな決意が宿っていた。
 そして、その目が向けられたことにより、一本だったはずの道が二本に別れた瞬間になった。

「だからこそ、私は——……違う道を見てしまう」

 二人の視線が、静かに交差する。
 同じ場所に立ちながら、同じ未来を思いながら、選ぼうとしている答えだけが決定的に違っていた。
 その沈黙は、もはや“話し合い”のためのものではなかった。