想いと共に花と散る

 近藤は、机の上に置いた両手をゆっくりと組み直す。
 伊東の言葉を否定も肯定もせず、ただ受け止めようとしている仕草だった。

「より良い形、か」

 低く呟いてから、伊東を見据える。
 その目には、自愛に満ちた責任が滲んでいた。

「だがな伊東君。鎖があるからこそ、人は踏み留まれることもある。俺は、あいつらに“選べない戦”をさせたくない」
「選べない、ですか」

 伊東は扇子を閉じ、机の上にそっと置いた。乾いた音が、やけに大きく響く。

「局長。今の時代で“選ばずに済む立場”など、何処にありましょう」

 表情を変えず、伊東は静かに続ける。

「我々は、既に刀を持ってしまった。名を掲げ、恐れられ、憎まれ、血を浴びた。——……それでもなお『選ばない』というのは、ただ流されているだけでは?」

 脅すために言っているのではない。叱りつけているわけでもない。
 ただ、どれだけ成果を上げても裏にある嘲笑は消えないと、伊東は言葉にすることで思い知らせようとした。
 伊東に向けていた近藤の視線が、僅かに揺れる。

「流されている、か」

 噛み締めるように言ってから、首を振る。
 伏せられた目には、確かな理想───……志が滲んだ。

「違う。俺は、あいつらが“帰れる場所”を残したいだけだ」
「帰る場所とは、何処を指すのでしょう。幕府ですか? 故郷ですか? それとも——……理想?」

 問い詰めるような口調ではない。だが、その言葉は鋭く、逃げ場を塞いでいく。
 閉じた扇子を机に突き立て、下から覗き込むように見据える伊東は言葉を続ける。

「幕府は、もはや我々を守りきれませんわ。敗戦の責を、新選組に押し付けることすらあり得る」

 近藤は、否定も肯定もせず黙って聞いている。否定しないのは、それが事実だからだ。
 彼だけでなく、新撰組として生きとし生きる者達が皆気づき始めていること。
 幕府のために仕える自分達が、幕府に見捨てられつつあることに近藤も気付いていた。

「ならば、新撰組は新撰組として立つべきです。思想を持ち、意思を示し、進む方向を明確にするのですよ。“誰かの剣”でいる時代は、終わりつつありますから」

 近藤の拳が、机の上で僅かに強ばった。
 拳が震えるのは、志を否定された消失感か、それともあることに対する怒りか。

「……伊東君。君は、隊士達を“旗の下に集める駒”だと思っているのか」

 その言葉には、抑えきれない怒りがありありと表れていた。