「……総司もかよ」
何処か不満そうに唇を尖らせて、くるりと後ろを向いた藤堂は柵に背を預けた。
夜風に靡く髪が彼の横顔を隠す。その向こう側に何が流れたのかなど、雪には分かるはずもなかった。
「平助君と総司君。二人が私をつまらない世界から助け出してくれた」
「……っ………そっか」
しゅるりと布が擦れ合う音が聞こえる。
何気なく隣に視線を向けると、藤堂が額に巻いていたバンダナを右手で握っていた。
光のない目でそれを見る横顔は、何処か儚く、触れると壊れてしまいそうで。
「俺が兄貴かぁ。……ははっ、守りてぇもん守れねぇ俺が?」
「なんで? 平助君はいつも守ってくれてるじゃん」
「こんな傷を負うようなヘマする奴が、何を守れるってんだ」
その言葉には、微かな怒りが滲んでいた。それと同時に、言いたくないことを言ってしまった苦しみも見える。
バンダナの奥に隠されていたのは、ただの傷ではなく後悔であった。
「ま、んなこと言っても何も変わらねぇか」
どうして、そうすぐに本心を隠してしまうのだろう。言いたいことを飲み込んでしまうのだろう。
笑いたくない状況で笑顔を作っても、それはただの引き攣った表情にしかならないのに。
顔では笑顔を取り繕っているが、バンダナを握る手は酷く震えていた。
そんな姿が見ていられなくて、雪は震える藤堂の手に触れた。掌からその震えが伝わってくる。
「……雪?」
「守ってくれてるよ。これまでも、今も」
手を伸ばしてくれたから、心配してくれたから、傍にいてくれたから、誘ってくれたから。
雪は誰かと共にいる楽しみ、幸せを知ったのだ。
「私が知っている新撰組八番隊組長、藤堂平助は、元気で明るくて事あるごとに巫山戯る」
「それ、褒めてる?」
「褒めてるよ。それで、いつも原田さんと喧嘩して永倉さん達に怒られてる。でも、その元気さが皆を明るくしてるの。もう数え切れないくらい、私は平助君の優しさに助けられてきたよ。平助君の守りたいものは、きっと守れてる」
前は彼から手を握ってくれたから、次は雪から握る番。
指を絡ませて握れば、夜とは言え真夏なのに随分と冷えていた。どちらの手が冷えているのか分からないが、握れば温まっていく。
強く握れば握るほどに、あいだにあった距離は縮んでいった。
「ありがとうね。平助君」
花火は上がらない。祭りの喧騒が鳴りを潜め、二人を見下ろすのは小さな星の集まりだけであった。



