想いと共に花と散る

 何かが聞こえた気がした。花火の音に混ざって、大切な何かを伝えられたはず。

「いや、なんでもねぇよ」

 なんてことのないように笑う藤堂は、柵の前で振り返っていた雪の隣りに立った。
 そのまま、小さくなった町をぼんやりと眺める。瞳が揺れ動くのは、花火の明るさに目が驚いたからなのだろうか。

「平助君?」
「花火、見逃すぞ」

 そう言われて空を見上げた瞬間、また一つ夜が裂けた。
 眩い光が降り注ぐ中で、雪は不思議な胸騒ぎを覚える。
 ——聞こえなかったはずなのに。
 ——何故か、胸の奥が熱い。
 きっと、言葉より先に届いてしまったのだ。
 それが何なのかは分からない。けれど、分からないままでいる方がいい。
 伝わらなくていい、伝えなくていい。きっと、藤堂はそう考えている。
 雪に届かない言葉は、花火の音によって遠くへ遠くへと飛ばされていった。

「俺さ。ずっと憧れてたんだ」
「……何に?」

 隣で空を見上げる藤堂の顔を見ながら、雪は首を傾げる。
 思えば、今までこうして藤堂から自身の話を聞かされたことがなかった。

「兄弟ってやつ。局長達見てると兄弟っていいなあって思うんだよ」
「確かに。あの三人仲いいもんね」
「けど、あの中に自分は入れねぇって同時に思うんだ。あの三人だから成立してる感じ」
「分かるかも、それ」

 たとえ人生の大半を同じ屋根の下で過ごしているとしても、超えてはいけない境界線というものは存在する。
 そこでふと、雪は思った。この人と一緒なら、何も考えなくてもいいのだと。
 役目も、未来も、血の匂いも、今夜だけは遠くにある。
 笑っているその顔は、戦の中で見るものとはまるで違っていた。

「心のどっかで、お前のことを弟みたいに見てたのかもなぁ。本当は、違うのに」

 違う。その言葉には一体どれだけの想いがめられているのだろうか。
 笑っているはずなのに、その横顔はやけに悲しげだった。

「……私、時々考えるの」
「ん?」
「お兄ちゃんがいたら、平助君や総司君みたいな人がいいなって」

 両手で柵を握り、町を見下ろしながら雪は言う。

「初めて手を繋いでくれたの、平助君達だったんだよ」

 藤堂の目が揺れ動いた。その変化を見た雪は、いたずらが成功した子供のように笑い、もう一度町を見下ろす。
 呉服屋で袴を買い、甘味処に寄ってからの帰る時間は今でもよく覚えている。
 夕焼けを背景に手を伸ばす二人の手を迷わず握った。
 あの時に躊躇せず手を握ったから、今も共にいられるのかもしれない。そう思うと、この時間が幸せで当たり前のものでないのだと気付かされる。