想いと共に花と散る

 この場で異国人という言葉に疑問を抱くものは自分だけのようである。
 大男の発言に鬼は何も気にした様子を見せなかった。もしかしなくても、彼も大男と同じことを思っているのだろう。

「そこでだ、君に提案しよう。このまま帰しても家はない、ましてやその身なりをしていれば再び浪士に絡まれることも目に見えている中でここを出るか、それともここで暮らすか、どちらか選ぶといい」
『はあ!?』

 突拍子もない大男の発言に鬼と声を揃えて大声を上げた。
 鬼は眉間にこれほどかというほど皺を寄せて、大男を鬼の形相で睨めつけ始める。
 
「な、何言ってやがんだ近藤さん! こんなまともじゃねぇ奴をここに置くなんざ───」
「ではトシは、年頃の女子をたった一人で人斬りだらけの世に放り出すというのか?」
「っ……それは………」

 流石上司と言うべきか、大男が一蹴すれば鬼は素直に口を噤んだ。
 決して怒っているわけにはないにしろ、大男が醸し出した空気は息を呑むほどに凄みを持っている。 
 彼がその気になれば、鬼ですら彼に対して反論することすら許されないのだろう。

「け、けどよ近藤さん。俺達は京の治安を守る組織だ。ましてや男世帯に女人が紛れているなんざ周囲に知られてもみろ、風紀が乱れるのは避けられねぇぜ」

 どうして女性がいると風紀が乱れるのかは、年頃の娘であれば説明されなくとも察せる。それに、ここへ来てからというもの鬼や青年、この大男と男性しか見ていないのだから、日頃から明確な規則はなくとも女人禁制の動きはあるのだろう。

「ううむ、確かにトシの言う通りか……」
「だろう? じゃあ近藤さん、こいつはそろそろ帰して」
「よぉし分かった! ならば誰かの小姓としてここに置こうではないか。ならば何も文句はあるまい」
『はあ!?』

 ある意味、この場に馴染んでいるのかもしれない。
 打ち合わせなど何もしていないというのにぴったりと鬼と同時に叫んだのだから。

「……誰の小姓にするってんだ」

 深い溜息を吐いた鬼は、不服ながらにも大男に問う。
 問われた大男はしばし考え込んだ後に、ぱっと表情を晴れさせた。何かいい案でも思いついたかのようである。

「トシ、君の小姓にしてやりなさい。この娘を連れてきたのは君だし、息も合うようだからね」
『はあああああ!?』

 言った傍から不満を訴える声が揃った。鬼と顔を見合わせ、そしてもう一度大男へと視線を向ける。
 鬼は凄まじい眼光で再び大男を睨めつけるが、彼は全く動じず真っ直ぐこちら見つめてきた。