想いと共に花と散る

 金魚が入った袋を一つずつ手に持ち、日が暮れた町の中をゆっくりと歩く。
 心做しか、人が増えているような気がした。それもそのはず、もうすぐ打ち上げ花火が始まる時間のようである。

「わっ───!」

 飛び出していた石に足を取られ、雪の身体は大きく前に傾く。
 転ぶ。そう思って身構えると、ふわりと何かに支えられた。

「大丈夫か?」
「う、うん。ごめん、ありがとう」
「おう。気ぃつけろよ」

 頭上に吊るされた提灯の明かりが藤堂の笑顔を淡く照らす。
 態勢を整えて再び向き合うと、どういうわけか藤堂に手を引かれた。
 何も言わず、強く手を握った藤堂はそのまま歩き出す。彼が進む方向は、人の流れから外れた山道だ。

「平助君?」

 呼び掛けても返事はない。ただ真っ直ぐと前を見て、道かどうかも怪しい道を進むだけだ。

「へ、平助君! 何処に行くの?」
「……いい所知ってんだ」

 ようやく振り返った藤堂は、たった一言そう言ってまた前を見た。
 雪の息が上がっていることに気が付いたのか、少しばかり歩く速さが緩まる。
 緩やかな傾斜が掛かった山道を進むと、やがて開けた場所に出た。

「ここって……?」
「こっからなら良く見えんだよ」
「何が───」

 ひゅるる───。
 ───ドン。

 腹の奥に落ちる音と共に、闇が一気に裂けた。
 咲いた光は一瞬で、夜を支配する。

「……わあ」

 一歩、二歩と先に進んだ雪は、顔を上げて目の前に広がる光景に見惚れた。
 色とりどり、大小さまざまな花火が夜空を埋め尽くしている。
 音はすぐに消えたのに、胸の奥だけがしばらく揺れていた。

「すごい、綺麗! ねえ平助君、すごいよこれ!」

 振り返って空を指さしながら、雪は年甲斐もない無邪気な笑顔を浮かべた。
 何度も何度も打ち上がる花火に照らされて、雪の顔は色とりどりの火花に照らされる。
 そんな目の前の存在を見て、藤堂はただ噛みしめるような笑みを浮かべた。
 走り出す雪の後ろ姿を追いながら、藤堂も空を見上げて感嘆の声を零す。

「……ああ、すげぇ綺麗だ」

 辺りを花火の爆発音が埋め尽くす。大して離れていないはずなのに、雪の声はほとんど聞こえない。
 だから、わざわざ言う必要もない言葉が口から溢れた。

「なあ、雪。俺さ……お前のこと───」

 ドン───。

「ん、何か言ったー?」