想いと共に花と散る

 人の流れに身を任せながら、二人は屋台の並ぶ通りを歩いた。
 提灯の灯りが揺れるたび、影が足元で伸びたり縮んだりする。時々足元に視線を落として、転ばないように進んだ。

「あ。あれってリンゴ飴?」

 ふと立ち止まった雪の視線の先には、赤い布に「リンゴ飴」と書かれた屋台がある。
 数歩先で立ち止まった藤堂は、雪の視線を追って同じ方向に目を向けた。

「お、食うか?」

 藤堂は迷いなく屋台に近づき、懐から小銭を取り出す。
 慌てて駆け寄った雪は、目の前に広がる光景に思わず目を奪われた。
 赤く艶やかな飴に包まれた林檎が、ずらりと並んでいた。

「……こういうの、初めて」
「まじで? じゃあ記念だな」

 差し出されたリンゴ飴を雪は両手で受け取る。ずっしりとした重みが指先から伝わってきた。
 少し鼻を近づけると、飴の甘い香りが鼻先を擽る。
 未知の世界の真ん中にいるような気がして、雪は思わず藤堂の顔色を伺った。目が合うと、藤堂は笑みを浮かべて食べるように促してくる。
 それに従って一口齧ると、ぱきりと小さな音がして舌に強い甘さが広がった。

「……甘い」
「だろ。歯にくっつくのが難点だけどな」

 藤堂はそう言って笑い、再び人混みの中へと入っていく。その背中を追いながら、雪はリンゴ飴を囓った。
 途中で藤堂が焼きとうもろこしの屋台に寄り、一つ買った後に屋台裏の空き地に向かう。
 人の波から外れて一息吐くと、互いに手にするものに齧り付いた。
 リンゴ飴の甘い香りに混ざって、焼きとうもろこしの焦げた醤油の匂いが漂い、思わず雪の視線はそちらに向く。

「いる?」
「……ちょっとちょうだい」
「はいはい」

 差し出された焼きとうもろこしを受け取り、ぎこちなく口を開けて少し齧る。
 焼き立ての熱さに思わず目を細めると、藤堂が楽しそうに肩を揺らした。

「食うの下手だなぁ」
「初めてだから仕方ないでしょ」
「それ、便利な言い訳だよなー」

 くすくすと笑い合いながら、次の屋台へ向かう。
 金魚すくい、射的、綿菓子。
 どれも雪にとっては、教科書の写真やテレビの向こう側にあったものばかりだった。
 次に二人が立ち止まったのは、大きな水槽に無数の金魚が泳ぐ金魚すくいの屋台の前。

「やってみる?」
「うん」

 隣り合って水槽の前に座り、屋台の店主から紙のポイを渡される。
 水面を泳ぐ金魚を前に、雪は真剣な顔になった。

「これ、難しくない?」
「力入れすぎんなよ。そーっとだ」

 藤堂の助言を受けて、慎重にポイを沈める。
 しかし次の瞬間、紙はあっけなく破れた。金魚に触れるまもなく、一瞬でポイは使い物にならなくなる。

「あ……」
「はは、あるある」

 残念そうに肩を落とす雪を見て、藤堂は自分の番に替わった。それまでの無邪気な笑顔は無くなり、視界を何度も横切る金魚を睨め付ける。
 器用に金魚をすくい上げた金魚を手持ちの桶に入れると、金魚は中でぴちりと跳ねた。

「ほら」
「……すご」
「これくらいで感心されると、照れるな」

 藤堂は頭を掻きながら笑った。
 お世辞でも、おだてているわけでもない。雪がただ思ったことを口にしただけだと知っているから、藤堂は何も追求しなかった。