本堂の廊下をドタバタと音を立てながら走る。曲がり角から顔を出した隊士とぶつかりそうになりながらも、その足は止めなかった。
「土方さん!」
開けっ放しにされた障子を超え、部屋の中にいる土方の背中に声を掛ける。
いつにもなく息が上がり興奮した様子の雪を見て、土方とその隣にいる近藤は目を見開いた。
「な、なんだいきなり」
「お願いしたいことがあるんです」
忙しなくその場に正座をし、再び土方に向き直る。
のけぞって戸惑いを見せる土方をよそに、雪は真っ直ぐと切れ長の目を見つめた。
近藤は何事かと顔をのぞかせて様子を見ている。雪の眼中にそんな近藤の姿は入っていない。
「外出許可をください」
土方の小姓である限り、主の指示に従うのが雪の仕事だ。
長らく小姓を続けてきたことで、掃除や炊事などの雑務は指示がなくとも自発的に熟すようになった。
しかし、市中の見回りや出陣の時は土方の指示に従うことになっている。
それは雪一人で外出をする時も同じだ。
以前、無断で外出をした結果、辻斬りの主犯であった早川に襲われた雪は昏睡状態に陥った。
それからというもの、やけに土方が過保護になったのであった。
「誰と何処で何をするのか、言う約束だ」
「平助君とお祭りに行きます」
「……はぁ?」
新撰組隊士と出掛ける、そのことをわざわざ隠すことではない。
藤堂は試衛館時代から土方達といるため、彼であれば許してもらえるだろうというのが雪の目論見だ。
「なんでまた平助と……」
「誘ってくれたんです」
「おお、平助からか。楽しんできなさい!」
「いやいや、なんで近藤さんが許してんだ」
土方に一蹴された近藤はしゅんと項垂れる。普段の雪であれば、こういう時に慰めに回るのだが今日は違う。
何が何でも、外出許可を勝ち取らなければならないのだ。
藤堂と出掛ける日は逃げやしないが、夏祭りは今日を逃すと来年まで行けないから。
「お願いします。土方さん!」
勢いよく頭を下げ、誠意を全身で全力で示す。
そして、雪にはもう一つ目論見があった。
土方という鬼と恐れられる新撰組の副長は、小姓の圧力には弱い。その弱さに付け入れば、許可を得られるのではないかと考えたのである。
「……わぁった。気ぃつけて行って来い」
「───……っ! ありがとうございます!」
もう一度頭を提げた雪は、袴の裾を踏んで足を取られても止まらずに部屋を飛び出した。
こんなにも目の前が輝いて見えたことはあっただろうか。
廊下を走る雪の顔に、誰にも見せたことのない満面の笑みが浮かんでいたのはここだけの秘密。
「土方さん!」
開けっ放しにされた障子を超え、部屋の中にいる土方の背中に声を掛ける。
いつにもなく息が上がり興奮した様子の雪を見て、土方とその隣にいる近藤は目を見開いた。
「な、なんだいきなり」
「お願いしたいことがあるんです」
忙しなくその場に正座をし、再び土方に向き直る。
のけぞって戸惑いを見せる土方をよそに、雪は真っ直ぐと切れ長の目を見つめた。
近藤は何事かと顔をのぞかせて様子を見ている。雪の眼中にそんな近藤の姿は入っていない。
「外出許可をください」
土方の小姓である限り、主の指示に従うのが雪の仕事だ。
長らく小姓を続けてきたことで、掃除や炊事などの雑務は指示がなくとも自発的に熟すようになった。
しかし、市中の見回りや出陣の時は土方の指示に従うことになっている。
それは雪一人で外出をする時も同じだ。
以前、無断で外出をした結果、辻斬りの主犯であった早川に襲われた雪は昏睡状態に陥った。
それからというもの、やけに土方が過保護になったのであった。
「誰と何処で何をするのか、言う約束だ」
「平助君とお祭りに行きます」
「……はぁ?」
新撰組隊士と出掛ける、そのことをわざわざ隠すことではない。
藤堂は試衛館時代から土方達といるため、彼であれば許してもらえるだろうというのが雪の目論見だ。
「なんでまた平助と……」
「誘ってくれたんです」
「おお、平助からか。楽しんできなさい!」
「いやいや、なんで近藤さんが許してんだ」
土方に一蹴された近藤はしゅんと項垂れる。普段の雪であれば、こういう時に慰めに回るのだが今日は違う。
何が何でも、外出許可を勝ち取らなければならないのだ。
藤堂と出掛ける日は逃げやしないが、夏祭りは今日を逃すと来年まで行けないから。
「お願いします。土方さん!」
勢いよく頭を下げ、誠意を全身で全力で示す。
そして、雪にはもう一つ目論見があった。
土方という鬼と恐れられる新撰組の副長は、小姓の圧力には弱い。その弱さに付け入れば、許可を得られるのではないかと考えたのである。
「……わぁった。気ぃつけて行って来い」
「───……っ! ありがとうございます!」
もう一度頭を提げた雪は、袴の裾を踏んで足を取られても止まらずに部屋を飛び出した。
こんなにも目の前が輝いて見えたことはあっただろうか。
廊下を走る雪の顔に、誰にも見せたことのない満面の笑みが浮かんでいたのはここだけの秘密。



