想いと共に花と散る

 気が付けば、部屋の中にいても蝉の騒がしい声が聞こえる季節になっていた。
 八木邸、前川邸にいた頃は、雪一人で掃除をしていたのも、今では数人の隊士や女中と熟している。
 それだけ、時代と共に新撰組は大きな組織となった。
 
「……あっつ………」

 西本願寺の境内の真ん中で箒を握っていた雪は、青々とした空を見上げて呟いた。
 立っているだけでも汗が吹き出してくる。

(あの時代の方が暑いけど、こっちもこっちで暑いな)

 雪が生まれた時代の方が環境問題などで気温はずっと高い。
 それでも、この時代の夏というのは嫌気が差すほど暑いものだった。
 顎から落ちた汗が土に小さな染みを作った、その時。

「あつー。こんな暑さでやってられっかよ」

 背後から、場違いなほど呑気な声がした。
 振り返ると、本堂の方から境内を歩く藤堂の姿が見える。
 羽織は脱いで肩に引っ掛けただけ。額には薄っすらと汗が滲んでいた。

「……平助君」
「その反応、完全に暑さにやられてるな」

 藤堂はにししと笑って、目の前にまでやってくる。
 手で顔を仰ぎながら、雪が持つ箒に視線を落とした。

「真面目にやりすぎ。倒れたら土方さんに怒られるぞ?」
「でも、掃除しないと怒られちゃう」

 休めるものなら今すぐにでも休みたいが、そういうわけにもいかない。だから、こうして溶けそうになる暑さの中でも外にいる。
 不満を露わにしつつそう返すと、藤堂は声を上げて笑った。

「違いねぇ」

 ひとしきり笑った後、藤堂は何を言うでもなく雪の目を見つめた。
 目が合っているはずなのに、藤堂の目の焦点が定まっていないような気がする。
 彼の意図が分からず、雪はきょとんとした顔をしながら首を傾げた。
 やがて、小さな笑みを浮かべた藤堂は雪から目を逸らした。

「なぁ、雪って祭り好き?」
「祭り? 祭りって、屋台が出たり浴衣を着たりする……?」
「そうそう、今夜町で祭りがあるらしいんだよ」
「そうなんだ」

 この時期にある祭りといえば、老若男女愛してやまない夏祭りだろう。
 浴衣を着て下駄を履き、提灯が辺りを淡く照らす町を練り歩く。立ち並ぶ屋台で時に食べ物を買って、河川敷などに腰掛ける。
 
(祭りかぁ、行ったことないな。……まあ、友達がいなかったからなんだけど)

 年頃であるはずなのに夏祭りに行ったことがないと言って、藤堂はどう思うだろうか。
 初めて会った時に雪の家庭事情を案じたように、心配するのか。
 それとも不審げに思うのか。