想いと共に花と散る

 顔色が戻った雪を見て、土方は小さく笑みを落とす。
 何も言わずに頷いた土方は、立ち上がって部屋を出ていった。

「……泣きたいのは、私じゃない。きっと、総司君が一番泣きたいよね」

 いつかは刀を握るどころか起き上がることすらできなくなってしまう。
 幼い頃から共に生きてきた近藤達と離れ離れになってしまう。
 そんな状況下に置かれている沖田の方が、余っ程涙を流したいと思っている。そして、人までは涙を流そうとはしない。

「土方さんだって、辛いもん……」

 誰よりも優しく、残酷で厳しい人であると知っている。
 だから、土方は沖田の身体を病が蝕んでいると知って、衝撃を受けているはずだ。 
 それでも、そんな様子を見せるどころか、雪を諭す真似をした。
 自分自身に言い聞かせるために、雪を現実を受け入れるための理由にしたのだ。

「失礼。結城君はいるでしょうか」
「……松本先生、ですか?」

 立ち上がる気になれず座り込んだまま問い返すと、少しだけ障子を開けて松本が顔を覗かせた。

「何かご用ですか?」
「まだ君の診察をしていなかったでしょう。土方君にここで診察をするように言われましてね」

 静かに障子を閉じた松本は、雪の前に座った。
 雪も彼に向き直り、正座をする。頬を伝う涙を慌て手拭い、松本へと視線を向けた。

「あの、私、別に怪我とかしていないんですけど……」
「それは承知していますよ。持病もないと事前に聞いています」
「じゃあ、定期検診的なことですかね」

 何気なく言った言葉だったはずなのに、言った瞬間に松本の表情が曇った。
 視線を彷徨わせ、何処か躊躇しているようにすら見える。
 訳が分からず、雪は小首を傾げた。

「近頃、変だと思うことはありませんか?」
「変なこと? 私、何か変ですか? 別に変なことなんて───」

 ───ジジ。
 ジジジ───。

 雑音に混ざるように、頭の中でいつぞやの光景が蘇った。
 水面に映った自分の姿が掠れて見えたこと。
 目を合わせて話していたはずなのに、原田が話の途中で何処かに行ってしまったこと。
 何度も現代での夢を見たこと。そして、何かを忘れていたこと。

「思い当たる節があるね」

 砕けた口調で松本は目を光らせた。
 雪は少しずつ呼吸を荒げながら、自分の頬に手を当てる。
 そして手を降ろし、視線を掌に向けた。