想いと共に花と散る

 雪は得体のしれない恐怖に襲われ、縋るように土方を見上げる。

「土方さん……総司君、死んじゃうんですか……?」
「誰がそんなこと言った」

 即座に返ってきた言葉に、雪は言葉を詰まらせた。
 土方の言う通り、誰かが死ぬと言ったわけではない。けれど、あの二人の会話を聞いていたら、誰だってそう思うだろう。

「だって……不治の病って……」
「“治らない”と“すぐ死ぬ”は違う」

 雪の言葉を遮って、言い切るように土方は言った。
 真っ直ぐと雪の目を見る土方の目には、怒りも蔑みもない。
 ただ、子供を諭す親のような正しい理念が滲んでいた。

「今すぐどうこうなる話じゃねぇ。あいつはまだ生きてる。刀も握れる」
「でも……でも……!」

 声は徐々に大きくなっていった。部屋の外にすら届くほどに、その叫びは辺りに響き渡る。
 土方に両方の肩を掴まれようと、雪の震えは止まらなかった。

「いつか……苦しくなって……」
「それ以上、勝手に先を考えるな」

 土方の声が少しだけ荒くなった。
 微かに憂いを帯びていた瞳に鋭さが宿り、雪を強く貫く。
 視線に刺された雪は、土方から目を逸らせなくなっていた。

「……あいつが一番分かってる。自分の身体のことも、この先のことも」
「……っ」

 雪は唇を噛み、言葉を途切れさせた。
 分かっている。理屈では分かっている。それでも、怖かった。
 未来が。“失うかもしれない”という可能性が。
 土方は雪に顔を近づけ、視線の高さを合わせた。

「お前が今やることは、泣き喚くことじゃねぇ」
「……じゃあ、何を……」
「“いつも通り”だ」

 返ってきたのは、聞いたことのない静かな声だった。
 いつも怒鳴ってばかりで、眉間に皺が寄っていないことのほうが少ないというのに。
 この時の土方が見せた表情は、鬼とは似ても似つかない儚さを纏っていた。

「いつも通り飯を作って、話して、笑ってろ。あいつが望むのは、それだ」

 雪の胸に、その言葉がゆっくりと落ちていく。
 いつからか、当たり前でなかったはずのことが当たり前になって、いつも通りだと安心する毎日を過ごしていた。
 朝起きて、皆の朝餉を用意することが雪の当たり前なのなら、雪が用意した朝餉を食べることが土方達の当たり前。
 誰しもが、当たり前が続くように願っているのだ。

「病人扱いするな。哀れむな。特別にするな」
「……でも……」
「それが、一番残酷だ」

 掴んでいた雪の肩から手を離し、土方は雪に向き直る。
 切れ長の目に見つめられ、雪はその瞳に吸い込まれそうになった。

「泣くなら、一人の時にしろ。あいつの前では、絶対に泣くな」
「……はい……」

 震えながらも、雪は確かに頷いた。