想いと共に花と散る

 どういうことだ。今の話は、一体どういうことなのだ。

「労咳、でしょう」

 松本の低く澄んだ声が庭に響いた。
 物陰に隠れて話を聞いていた雪は、思わず口元を手で覆う。
 震える手の隙間から溢れる息も同じく震えた。

(ろう、がい……? 総司君は、病気ってこと?)

 周りの音が聞こえなくなるほどに、雪の頭を「労咳」という言葉が支配した。
 この時の雪は、労咳が後の結核であるということを知らない。
 だから、沖田が病気を患っており、その病気は見知らぬ不治の病であるという衝撃が襲った。
 ふらふらと覚束ない足取りで庭を離れ、自室に入ってからも衝撃は消えない。

「……死んじゃう、死んじゃうの? 総司君は、死んじゃう?」

 畳の上に座り込み、頭を抱えれば出てくるのはそんな言葉ばかり。
 嘆いても、涙を流しても現実は変わらない。それなのに、畳の上には染みが増えるだけだった。

「雪。ここにいるのか?」

 沖田と松本の会話が脳内で蘇って、雪の意識を周囲から遮断する。
 部屋の外から聞こえてくる声にすら気づかぬまま、雪は震える手で頭を抱えていた。
 しばしの沈黙の後、もう一度部屋の外から声が聞こえてくる。

「入るぞ」

 返事も待たずに部屋に入ってきたのは、驚くほど普段と何ら変わらない仏頂面の土方だった。
 部屋の真ん中で蹲る雪を見て、土方は目を丸くする。

「……何してんだ」
「あ……っ、………んが……」
「あ? はっきり話せ、聞こえねぇだろうが」
「総司君が……死んじゃうっ」

 言ってしまってから、雪の正気は完全に崩れた。
 すぐ傍に膝をついた土方の存在にすら気づかぬまま、雪は何度も頭を振る。

 「……誰に、聞いた」

 雪の方に触れた土方は、低い声で問うた。
 怒鳴るでもなく、責めるでもない。ただ事実を確認するためだけの声音。
 雪は顔を上げられず、涙でぐしゃぐしゃになった視界のまま首を横に振った。

「……っ、聞いちゃ……いけない、って……分かってたのに……」
「質問に答えろ」

 強い口調に、雪の肩がびくりと跳ねる。
 ようやく土方の目を見た雪は、あまりの眼光の鋭さに身体を仰け反らせた。

「……縁側で……松本先生と……総司君が……」

 曖昧ながらも紡がれた雪の発言に、土方はほんの一瞬だけ目を伏せた。
 そして小さく息を吐き、一層強く雪の肩を掴む。

「……そうか」

 それだけを言って、土方は雪から視線を逸らした。
 否定も、驚きもない。いつかはこうなると分かっていた。
 それが少しだけ、早かっただけのこと。