「何故、こんな所にいるんですか?」
引き摺るような足音が聞こえて、沖田は振り返った。
廊下の先から姿を表したのは、近藤達が江戸で知り合ったという蘭方医の男である。
「お医者さんこそ、どうしてここにいるんです? 診察はもう終わったんですか?」
「ええ。後は君だけですよ、沖田君」
微笑む松本が言った言葉を聞いた沖田は、ほんの少し目を細めた。
その目には、微かな警戒心が滲む。
大方、診察をして何を言われるか想像がつくからだ。
「お隣失礼します」
「……聞いたんですよねぇ。あの人達に」
「話を聞いただけではありますが、すでに目星はついています」
そうは言いながらも、近藤達に頼まれた側である松本は診察を始める。
沖田の身体を触りながら、深く考える仕草を見せた。
「覚悟はありますか?」
「何のです?」
「……その様子なら、もう分かっているようですね」
「自分の身体のことは自分が一番よく分かってますよ」
あえて惚けてみせたのは、少しだけ希望を持ちたかったから。
もしかした自分の勘違いかもしれない。一時的なもので、時間と共に治るかもしれないと。
けれど、心の何処かではすでに受け入れている自分もいる。
勘違いではなく現実で、時間と共に悪化し、身体を蝕んでいくものであると。
「労咳、でしょう」
「……そうですか」
「やはり、落ち着いていますね」
「驚いたって、治るわけじゃないでしょ」
「それもそうですが……。彼らには伝えますか?」
「どちらでも。どうせ、土方さんには気づかれてます」
着物を着直しながら、沖田は半ば投げやりに吐き捨てた。
希望は潰えて、現実を知ってしまったのだから。
自分はもう長くはない。近い未来、刀を握ることすらままならなくなる。
「咳を和らげる薬を出しておきます。それと、近藤君達には話をしておきましたが、極力病室で安静にするように」
「……俺から、刀を奪う気ですか?」
言葉には、意思に反した棘が含まれていた。
これに関しては、誰も悪くない。ましてや、松本は医師として診察した結果を伝えただけ。彼に八つ当たりしたとて、病気が治るわけではない。
それでも、気付いた頃にはすでに言ってしまっていた。
「新撰組では、剣の腕が立つことが全てなんです。刀が握れなくなったら、俺は……」
言葉が詰まったのは、どうしてだろうか。
心底腹が立つのに、妬ましいのに、信じられないのに、それ以上何も言いたくはなかった。
「……夏とは言え、身体は冷やさぬようにしなさい。それと、苦しければ誰かを呼ぶこと」
沖田の嘆きに松本は何も答えず、縁側を立つと本堂の方へと去っていった。
残された沖田は、変えようのない現実に奥歯を噛みしめて耐えるだけだった。



