想いと共に花と散る

 現実を突き付けられた藤堂は、がっくりと肩を落として列から外れていく。
 凹んでいるようだが、絶望した様子は一切見せない。
 診察を終えた平隊士に混ざって笑う様子を見ていると、彼の底知れない能天気さが伝わった。

「動かせますか?」
「まだ違和感はあるが、隊務に支障はない」
「指が繋がるまではもうしばらく続くでしょうが、ここを乗り越えれば違和感はあっても動かせるようにはなるはずです」

 次に松本の診察を受けるのは、藤堂と同じく池田屋事件にて親指を負傷した永倉だ。
 一時は、皮一枚でやっと繋がっているという状態にまで陥ったが、その治癒力の高さから今では難なく刀を握っている。
 それでも、多少の違和感はあるようだが、周りにはその様子を一切見せなかった。
 何度も包帯の交換をした雪だからこそ、気付いたことでもある。

「どうだ先生。俺のこの切腹痕!」
「原田君は元気そうですね。はい、次の方」
「ちょっと待てよ先生! もう少し診てくれてもいいだろう!?」
「これだけの人数を私一人で見る大変さをお考えください」

 腹に携えた傷は、過去に上司から馬鹿にされて見せつけるために切腹したところ、未遂に終わったことによりできたものらしい。
 土方に続いて、原田もまた切腹だなんだと武士としての志が強くあるらしい。
 正直、腹の傷を見せびらかすのも、上裸で暴れるのもやめてほしい。

「土方君。近頃まともに眠れていないようで」
「寝る暇があんなら、少しでも仕事を片付けたい。うちには外で暴れる馬鹿が大勢いるんでな。後始末をする奴が必要なんだよ」
「それでも、きちんと休息は取りなさい。何のために、あの子がいるんだ」

 部屋の隅でぼんやりと様子を見ていた雪は、突然松本に視線を向けられてはっと我に返った。
 松本に誘われるようにして、土方も雪を見る。
 その目は、「そう言えばいたな」とでも言いたげに、丸く見開かれていた。

「君は何でも一人で解決しようとしすぎる節がある。自分のことというのは、案外自分でも分からないんだよ」

 真剣な表情で捲し立てた松本は、ふっと小さく笑みを落とす。

「けれど、それが土方君の良さでもあるだろう。他人を頼る時、頼らない時の区別をつけるように」
「……ああ」

 パシッと音を立てて土方の背を叩くと、次の隊士の診察が始まった。
 列から外れた土方は、部屋の隅に一人で佇む。
 雪は、何かを考え込む仕草をする土方をぼんやりと眺めていた。
 彼が何を考えているのか、診ているだけでは何も分からないというのに。