雪には、そのことの重大さが痛いほど理解できた。
何度も山崎の右腕として隊士の傷の手当をしたことが何度もある。傷口を見る度に表情を歪めたことは、今でもよく覚えていた。
「おそらく、お前も診てもらうことになるだろう。取り敢えず、広間に行こう」
「はいっ」
着物の袖口から覗く包帯は見えなかったことにし、雪は斎藤の背を追った。
やがて、斎藤に付いて行った先にあったのは、西本願寺の広間である。入口で立ち止まり、中を覗くと多くの隊士が集まっていた。
「今日はよろしくお願い致します」
近藤の声が聞こえて視線を向けると、広間の真ん中に見慣れない男性がいた。
その男性の前には、近藤と土方の姿がある。やけに親しげな様子から、恐らく彼が江戸からやって来た蘭方医のようである。
(あの人がお医者さん? 江戸の医者は、未来とは随分と違う見た目なんだ)
医者と言えば純白の白衣を着てカルテを片手に診察をするイメージが強い。
しかし、視線の先にいる男性は、あまり医者という見た目をしているわけではない。
上等な着物を着ているわけでもなく、皺一つない質素な着物を着ているだけ。清潔感は感じられるが、町中ですれ違っても医者とは分からないだろう。
「我々の仲ではないですか。私にできることであれば、お力添え致しますよ」
「そう言ってもらえて助かるぜ、松本先生」
松本という蘭方医は、随分と近藤と土方に信頼されているらしい。
彼を見る二人の目に疑いの色はなく、確かな期待が滲んでいた。
「彼は松本良順。幕府の医師だ」
「幕府って、お偉い様じゃないですか」
「……ふっ。確かに、俺達よりもよっぽど偉いだろうな」
今の発言の何処に笑う要素があったのだろうか。
微かに溢れた斎藤の笑いが理解できず、首を傾げる雪をよそに斎藤は広間の中へと入っていく。
一人取り残された雪は、広間の壁際に寄り膝を抱えて座り込んだ。
「せんせー。この傷消えっかな?」
「これは……残念ながら完全には消えないでしょうね」
バンダナを外し、額を指す藤堂は松本の答えにがっくりと肩を落とした。
池田屋事件によって負った額の傷は、決して消えない事件の痕跡となってしまっていた。
何度も山崎の右腕として隊士の傷の手当をしたことが何度もある。傷口を見る度に表情を歪めたことは、今でもよく覚えていた。
「おそらく、お前も診てもらうことになるだろう。取り敢えず、広間に行こう」
「はいっ」
着物の袖口から覗く包帯は見えなかったことにし、雪は斎藤の背を追った。
やがて、斎藤に付いて行った先にあったのは、西本願寺の広間である。入口で立ち止まり、中を覗くと多くの隊士が集まっていた。
「今日はよろしくお願い致します」
近藤の声が聞こえて視線を向けると、広間の真ん中に見慣れない男性がいた。
その男性の前には、近藤と土方の姿がある。やけに親しげな様子から、恐らく彼が江戸からやって来た蘭方医のようである。
(あの人がお医者さん? 江戸の医者は、未来とは随分と違う見た目なんだ)
医者と言えば純白の白衣を着てカルテを片手に診察をするイメージが強い。
しかし、視線の先にいる男性は、あまり医者という見た目をしているわけではない。
上等な着物を着ているわけでもなく、皺一つない質素な着物を着ているだけ。清潔感は感じられるが、町中ですれ違っても医者とは分からないだろう。
「我々の仲ではないですか。私にできることであれば、お力添え致しますよ」
「そう言ってもらえて助かるぜ、松本先生」
松本という蘭方医は、随分と近藤と土方に信頼されているらしい。
彼を見る二人の目に疑いの色はなく、確かな期待が滲んでいた。
「彼は松本良順。幕府の医師だ」
「幕府って、お偉い様じゃないですか」
「……ふっ。確かに、俺達よりもよっぽど偉いだろうな」
今の発言の何処に笑う要素があったのだろうか。
微かに溢れた斎藤の笑いが理解できず、首を傾げる雪をよそに斎藤は広間の中へと入っていく。
一人取り残された雪は、広間の壁際に寄り膝を抱えて座り込んだ。
「せんせー。この傷消えっかな?」
「これは……残念ながら完全には消えないでしょうね」
バンダナを外し、額を指す藤堂は松本の答えにがっくりと肩を落とした。
池田屋事件によって負った額の傷は、決して消えない事件の痕跡となってしまっていた。



