伊東は雪の反応を見世物のように思いながら、溢れる笑みを扇子で隠した。
すると、思い通りに雪は挑発に乗る。
「……脆い、って」
思わず、声が出ていた。自分自身でも驚くほど、はっきりと。
伊東にもその声は聞こえており、扇子から覗く目がより細められた。
雪は拳を握り、階段の真ん中で立ち上がる。
足はまだ震えていたが、視線だけは逸らさなかった。
「迷うことが、そんなにいけないことですか?」
伊東の眉が、ほんの僅かに動いた。
笑みは崩れない。だが、興味が深まったのが分かる。
「戦う理由を考えることも、誰のためなのかを考えることも……全部、切り捨てなきゃいけないんですか」
月明かりが眩しい。目を開けているだけで焼けてしまいそうだ。
目の前の光景に上手く目を向けられないから、自分の中で今何をしているのかが分からない。
そのせいだと心で言い聞かせていても、言葉は上手くまとめられなくて。それでも、止められなかった。
「それじゃあ……それじゃあ、何のために生き残るんですか!?」
伊東は、雪をじっと見つめる。まるで、壊れやすい器を手に取る前のように。
「……なるほど」
低く、感心したような声。けれど、そこには確かな嘲笑が混じっている。
「やはり、山南君に影響されているようですわねぇ」
その名を出された瞬間、雪の喉が詰まる。
気付いてしまった。山南が時代に沿って変わっていく新撰組から置いていかれてしまった理由を。
彼が逃げ出すことでしか、時代に抗えなかった理由を。
「問いを持つこと自体は、尊い。ですが——……」
伊東の声が、僅かに冷たくなる。
扇子の向こう側にあった笑みは消え、細い目には蔑みの色が滲んだ。
「戦場では、答えの出ない問いは“重荷”です」
扇子を持たぬ手が、静かに組まれる。
月の明かりに照らされるその姿は、人狐そのもの。
人間味を感じさせないその姿が、伊東甲子太郎という男を体現していた。
「生き残るために必要なのは、理由ではなく選択ではなくって?」
大きく踏み出された一歩によって、二人の距離が詰まる。
見下ろすように顔を近づけた伊東は、雪にだけ聞こえるように耳元で囁いた。
「選び続けられる者だけが、次の時代に立てる」
その言葉に、雪の胸が軋んだ。
強く握り締めたことによって、爪が掌に食い込む。
痛みを感じる暇もなく、雪の心に浮かぶのは伊東の冷え切った言葉だけ。
「……私は」
声が震える。神経で繋がった身体は徐々に震えだし、少し気を抜けばその場に崩れ落ちそうだ。
けれど、雪は震えを無理矢理に抑え込んで顔を上げる。
「それでも、迷うと思います」
伊東の目が雪を睨め付けた。
すると、思い通りに雪は挑発に乗る。
「……脆い、って」
思わず、声が出ていた。自分自身でも驚くほど、はっきりと。
伊東にもその声は聞こえており、扇子から覗く目がより細められた。
雪は拳を握り、階段の真ん中で立ち上がる。
足はまだ震えていたが、視線だけは逸らさなかった。
「迷うことが、そんなにいけないことですか?」
伊東の眉が、ほんの僅かに動いた。
笑みは崩れない。だが、興味が深まったのが分かる。
「戦う理由を考えることも、誰のためなのかを考えることも……全部、切り捨てなきゃいけないんですか」
月明かりが眩しい。目を開けているだけで焼けてしまいそうだ。
目の前の光景に上手く目を向けられないから、自分の中で今何をしているのかが分からない。
そのせいだと心で言い聞かせていても、言葉は上手くまとめられなくて。それでも、止められなかった。
「それじゃあ……それじゃあ、何のために生き残るんですか!?」
伊東は、雪をじっと見つめる。まるで、壊れやすい器を手に取る前のように。
「……なるほど」
低く、感心したような声。けれど、そこには確かな嘲笑が混じっている。
「やはり、山南君に影響されているようですわねぇ」
その名を出された瞬間、雪の喉が詰まる。
気付いてしまった。山南が時代に沿って変わっていく新撰組から置いていかれてしまった理由を。
彼が逃げ出すことでしか、時代に抗えなかった理由を。
「問いを持つこと自体は、尊い。ですが——……」
伊東の声が、僅かに冷たくなる。
扇子の向こう側にあった笑みは消え、細い目には蔑みの色が滲んだ。
「戦場では、答えの出ない問いは“重荷”です」
扇子を持たぬ手が、静かに組まれる。
月の明かりに照らされるその姿は、人狐そのもの。
人間味を感じさせないその姿が、伊東甲子太郎という男を体現していた。
「生き残るために必要なのは、理由ではなく選択ではなくって?」
大きく踏み出された一歩によって、二人の距離が詰まる。
見下ろすように顔を近づけた伊東は、雪にだけ聞こえるように耳元で囁いた。
「選び続けられる者だけが、次の時代に立てる」
その言葉に、雪の胸が軋んだ。
強く握り締めたことによって、爪が掌に食い込む。
痛みを感じる暇もなく、雪の心に浮かぶのは伊東の冷え切った言葉だけ。
「……私は」
声が震える。神経で繋がった身体は徐々に震えだし、少し気を抜けばその場に崩れ落ちそうだ。
けれど、雪は震えを無理矢理に抑え込んで顔を上げる。
「それでも、迷うと思います」
伊東の目が雪を睨め付けた。



