「気になること、とは一体?」
鬼の意味深な発言に大男は顎に手を当てて首を傾げる。
腕を組んで目を瞑っていた鬼はこちらに視線を向けて、鋭く瞳を光らせた。
「気になることっつうのは、こいつのことだ」
ギロリと凄まじい眼光で睨めつけられる。出会った時とは比にならないほどに強く、そして殺意ではなく苛立ちを綯い交ぜにした視線だ。
ドクンと心臓が跳ねる。蛇に睨まれた蛙はこういう気持ちなのだろうか。なんて馬鹿げたことを考えていないとすぐ場の空気に飲まれそうだった。
「まあ、何となくそうだろうとは思っていたが……」
自身の傍に刀を据えた男二人に見つめられ、なんとも居た堪れない雰囲気が漂い始める。
殺意を剥き出しにする鬼と微笑みを浮かべている大男の雰囲気の不一致さが返って精神を削っていた。
しばし間を開けた後、何か思い立ったらしい鬼が突然立ち上がる。
ズカズカとこちらに近づいてくると、首元に手を近づけて先ほど青年が巻いてくれた包帯を慈悲無く解いた。
「っ! こ、これは……」
無様にも露わになった首元には、浪士によって付けられた痛々しい刀傷がある。
首元を見た大男は目を見開いて言葉を失った。彼の方がよっぽど痛々しい古傷を着物の隙間から見える肌に携えているというのに、自分自身の傷のように苦しげな顔をする。
ただ包帯を解かれただけのはずなのに、まるで身ぐるみ全てを剥がされたような恥ずかしさが込み上げてくる。
「なっ、何をするんですか!」
折角、あの青年が親切に手当をしてくれたというのに。
この鬼は一体何処まで無慈悲なのであろうか。浪士に襲われているところを助けてくれたのは感謝すべきことであるが、あのまま邪魔さえ入らなければ自分は死ねていた。
こんなところで鬼に睨めつけられることも、怒鳴りつけられることもなかったはずなのだ。
そう考えると少しずつこの鬼に対する怒りが込み上げてくる。解いた包帯を投げつけられ、傍らに立って見下ろしてくる鬼を睨みつけるとそれ以上の鋭い視線を向けられた。



