想いと共に花と散る

 洗濯物が山積みになった桶を抱えて庭に出た雪は、池の中を覗き込んだ。
 
「うわっ……ホントだ、腫れてる」
 
 土方の忠告に従ってここまで誰にも会わないようにしてきたが、確かにこれは酷い。
 泣いた記憶などないのだが、この腫れ方は明らかに泣いた後のものだ。
 泣いたとすれば、今朝方の夢だろうか。泣いたとしても夢の中なのに、どうして目が腫れているのだろう。

「はあ、これじゃあしばらく人前に出られないな……」

 幸いと言ってしまっていいのかどうか怪しいが、今は昼時で隊士のほとんどは巡察に出ている。
 わざわざ会いに行くような真似などしなかったら見られることはない。
 土方など屯所に残っている者達もいるが、顔を合わせないで済むことを密かに願うしかないだろう。
 後で厨に行って何か目元を冷やせるものを探そう。そう思い立ち、雪は池の前から立ち上がる。
 慣れたもので、新撰組にいる大勢の隊士の洗濯物でも独りで片付けられるようになった。
 色とりどりの着物、真っ白な布を物干し竿に干し、風に揺れる様をぼんやりと眺める。
 少しすると、雪は傍らに置いていた桶を抱え直して庭を横切った。
 縁側から屯所に入り廊下へ向かう途中、曲がり角の先から足音が聞こえてくる。

「お、雪じゃねぇか」

 曲がり角から顔を出したのは、夜番帰りの原田であった。
 夜中まで仕事をしていたとは思えないほど、その評定は生き生きとしている。
 そんな原田の声を聞いて思わず顔を上げると、すでに彼は数歩先まで来ていた。

「おはようございます、原田さん」
「ああ、おはよう。つっても、もう昼だけどな」

 何気ない遣り取り。いつも通りのはずだった。
 原田の豪快な笑い方も、それにつられて笑う雪も、いつも通りの光景。
 それでも、何かが胸の奥でつっかえる。正体が分からないから取り除く方法も分からない。
 雪は返事をしながら、桶を持つ腕に少し力を込める。

「はい。洗濯をしてきて――」

 言い終わる前に、原田は軽く会釈して歩き去っていった。
 それだけのことなのに、胸の奥が妙にざわつく。

(……今、ちゃんと見てたよね?)

 視線は合っていた。声も届いていた。
 なのに、何かが一拍ずれていた気がした。
 気のせいだ、と首を振る。寝坊と夢のせいで神経が過敏になっているだけだろう。