「……ろ。……い、おい。起きろ」
はっと目を覚ます。 目覚めると同時に身体に思い倦怠感が襲った。
見慣れた木目の天井がやけに鮮やかな茶色をしている。
「いつまで寝てやがんだ」
ぬんと土方の顔が眼前に迫った。相変わらず幽霊のように白い肌をしていて、こちらを見下ろす目は鋭い。
雪は何度か瞬きをして、目を白黒させた。自室に土方がいる理由が分からない。
「今日は随分と寝坊助だな」
「……んえ?」
「もう昼回ってるぞ」
「えええ!」
淡々とした土方の言葉を聞くなり、雪は勢いよく飛び起きた。
寝癖でボサボサの髪を土方に見られていることにすら気づかないほど、雪の顔は青白くなっていく。
二回目だ。寝坊をかますのはこれで二回目になる。
「うわああ! 寝坊した!」
「寝起き早々元気な奴だな。心配するまでもねぇか」
「ひ、土方さん! なんで今まで起こしてくれなかったんですかあ!? 殴ってでも起こしてくださいよ!」
部屋の中をジタバタと走り回りながら雪は叫ぶ。
土方がいようと関係なく、髪を後ろで一つにまとめると着物と袴を引っ掴んだ。
空気を察した土方は無言で背中を向ける。雪は部屋の端で袴姿に着替えた。
「いやいや、何回も起こしに来てんだよ」
「えっ、そうなんですか?」
「俺達が代わる代わるな。総司も平助も、左之助らも来たぜ」
「なのに私、爆睡してたってこと?」
一気に申し訳なさと羞恥心が湧き上がってくる。寝顔を見られるなどこの上ない屈辱だ。
普段通りの袴姿に着替え終えると、土方は再び雪に向き直る。
不敵な笑みを浮かべる土方は、恐らく何か良からぬことを考えているのだろう。
そんなことを布団を片付けることに必死な雪は気づきもしないが。
「……いいもん見せてもらった」
「ど、どどど、どういう意味ですかっ!?」
「さあ、どういう意味だろうなぁ?」
「土方さんの意地悪!」
「意地悪で結構。寝坊助はさっさと溜まってる仕事をしてくるんだな」
ケラケラと笑いながら土方は立ち上がる。
頬を膨らませて怒りを露わにする雪は、勢いよく襖を閉めた。
沖田や藤堂はともかく、まさか土方にまで揶揄われるようになるとは。
馴染めてきた証拠と捉えれば喜ばしいことだが、やはり何だか腑に落ちなかった。
「ああ、そうだ」
「なんですか次は」
完全に気分が沈んだ雪は、障子を開けて部屋を出ていこうとする土方の背後に立つ。
見上げる雪の目には微かな怒りが滲んだ。
「その腫れた目で外には出ないほうがいいんじゃねぇか」
土方はそれだけを言い残し、足早に部屋を出ていった。



