ノートに書き写す手が止まった。まるで時が止まったように、周りの音が消える。
否、消えたのではなく聞こえなくなった。
(池田屋……池、田屋………ぁ……)
何度もその言葉が頭の中を駆け巡る。
知らないはずなのに知っているような感覚。先生の話など一切頭に入ってこず、ただ得体のしれない不安が込み上がってきた。
───ろ。
何か、聞こえた。あまりにも小さく聞き取ることはできないが、確かに聞こえた。
皆は黒板の方を向いて黙っているから、何か言ったとすれば先生くらい。しかし、先生は黒板に要点を書きながらつらつらと話し続けている。耳元で何かを言えるはずもない。
そう、耳元で聞こえた。何かを囁くように、自分にだけ聞こえるように。
(何、何かがおかしい……この違和感は、何なの?)
何気ない日常の一部分でしか無い。学校にいるのも、授業を受けているのも当たり前のこと。
毎日繰り返す普通の日常のはずなのに、この光景、この時間は何かが違う気がした。
───起きろ。
誰かの声が聞こえた。次は、確実に言葉を聞き取ることができた。
低く、荒々しく、不機嫌そうな男の声。先生とは違う深みのある声だ。
そんな声をしている者はこの空間にいない。まだ中学生であるのにここまで荒んだ声をしている男子生徒は流石にいないだろう。
(誰……? 私、別に寝てないけど。空耳か)
まだ寝惚けているだけなのだろう。きっと空耳だ。
そう自分自身に言い聞かせて、再び先生の話に耳を傾けた。歴史の教科書を開き、先生が大事だと言った所にマーカーを引く。
「この事件をきっかけに、新撰組っていう名前が京都中に広まることになったんだ」
じんわりと目の奥が熱くなった。それと同時に目の前がぼやけて歪んでいく。
「……ぁ、れ………?」
つうと頬を一筋の雫が伝った。指先で触れれば、次から次へと止めどなく溢れてくる。
「せ、雪華ちゃん! どうしたの!?」
「なんだ、うるさいぞそこ。結城? どうした、なんで泣いてる」
「え……いや、なんで………なんでだろ」
どうして泣いているんだろう。どうして涙が止まらないのだろう。
訳が分からず、ひたすら涙を拭うけれど一向に止まらない。それどころか、余計に溢れ出してきた。
(私、何か忘れてるの?)
何を忘れているのかすら分からない。ただ、社会科の授業を受けていただけではないか。
隣りに座っている女子生徒が慌ててハンカチを差し出してくるから、震える手で受け取り目元に当てる。
ふわりと甘い匂いがした。何かの花のような、何処かで嗅いだことのある匂い。
「……桜?」
ぷつんと、そこで意識と共に夢が終わった。
否、消えたのではなく聞こえなくなった。
(池田屋……池、田屋………ぁ……)
何度もその言葉が頭の中を駆け巡る。
知らないはずなのに知っているような感覚。先生の話など一切頭に入ってこず、ただ得体のしれない不安が込み上がってきた。
───ろ。
何か、聞こえた。あまりにも小さく聞き取ることはできないが、確かに聞こえた。
皆は黒板の方を向いて黙っているから、何か言ったとすれば先生くらい。しかし、先生は黒板に要点を書きながらつらつらと話し続けている。耳元で何かを言えるはずもない。
そう、耳元で聞こえた。何かを囁くように、自分にだけ聞こえるように。
(何、何かがおかしい……この違和感は、何なの?)
何気ない日常の一部分でしか無い。学校にいるのも、授業を受けているのも当たり前のこと。
毎日繰り返す普通の日常のはずなのに、この光景、この時間は何かが違う気がした。
───起きろ。
誰かの声が聞こえた。次は、確実に言葉を聞き取ることができた。
低く、荒々しく、不機嫌そうな男の声。先生とは違う深みのある声だ。
そんな声をしている者はこの空間にいない。まだ中学生であるのにここまで荒んだ声をしている男子生徒は流石にいないだろう。
(誰……? 私、別に寝てないけど。空耳か)
まだ寝惚けているだけなのだろう。きっと空耳だ。
そう自分自身に言い聞かせて、再び先生の話に耳を傾けた。歴史の教科書を開き、先生が大事だと言った所にマーカーを引く。
「この事件をきっかけに、新撰組っていう名前が京都中に広まることになったんだ」
じんわりと目の奥が熱くなった。それと同時に目の前がぼやけて歪んでいく。
「……ぁ、れ………?」
つうと頬を一筋の雫が伝った。指先で触れれば、次から次へと止めどなく溢れてくる。
「せ、雪華ちゃん! どうしたの!?」
「なんだ、うるさいぞそこ。結城? どうした、なんで泣いてる」
「え……いや、なんで………なんでだろ」
どうして泣いているんだろう。どうして涙が止まらないのだろう。
訳が分からず、ひたすら涙を拭うけれど一向に止まらない。それどころか、余計に溢れ出してきた。
(私、何か忘れてるの?)
何を忘れているのかすら分からない。ただ、社会科の授業を受けていただけではないか。
隣りに座っている女子生徒が慌ててハンカチを差し出してくるから、震える手で受け取り目元に当てる。
ふわりと甘い匂いがした。何かの花のような、何処かで嗅いだことのある匂い。
「……桜?」
ぷつんと、そこで意識と共に夢が終わった。



