想いと共に花と散る

 
「結城! 何、授業中に寝てんだ!」

 頭に衝撃を感じて目を開けると、机のすぐ傍に教科書を丸めて握る社会教師が立っていた。
 向けられる視線には、怒りと呆れが滲んでいる。
 ぼんやりとする頭を動かし辺りを見渡してみると、数人の生徒が奇異の目を向けてきていた。

「もう定期考査も近いってのに呑気なやつだな。また赤点取る気か?」
「……すみません」
「はあ、頼むぞ。次のテストではせめて赤点は取らないようにしろ」

 一通り言いたいことを言い切った先生は、教科書を丸めたまま教団に戻っていく。
 再び生徒達に向き直ると、教科書を広げて授業を再開する。

「止まっちまったが、次にやるのは幕末。江戸時代の終わりかけのところだな」

 嗚呼、そうか。今は歴史の授業中だったのか。
 前の授業から寝たままだったから気づかなかった。時計を見れば、もう授業の半分を過ぎている。
 のそりと起き上がり、渋々シャーペンを握ってノートに目を落とした。

(……ん?)

 手に持っているのは、薄いピンク色の可愛らしいシャーペン。何の変哲もない、文房具屋に売っていそうな普通のシャーペンである。

(こんなの持ってたっけ? てか、やたらとピンク色のものが多い気が……)

 筆箱、消しゴム、定規、ボールペン、ハサミ、クリップ。
 学生が当たり前に持っていて、授業を受けるのに必要な物のほとんどがピンクで統一されている。
 単純に、私物の色を統一させたい性質をしているとすればおかしいことではない。
 それでも気になるのは、別段ピンクが好きではないという点。
 そしてもう一つ、気になることは。

(水色、いや違う。少し緑がかっているけど、何色なんだろう)

 手にしているシャーペンに付いている小さなキーホルダー。
 水色と言うには濁っているし、緑と言うには青みがかっている。あまり目にすることがなく、名前が分からない色だ。

「一八六七年、七月八日に起こった大きな事件があるんだが、分かるやつはいるか? 手ぇ挙げろ」

 先生の質問に手を挙げる者は誰もいない。しんと静まり返った教室には、時計の針が進む音だけが響いた。
 辺りをキョロキョロと見渡し、クラスメイトの様子を伺う輩が増えていく。
 しばしの沈黙の後、先生は呆れた様子で溜息を吐いた。

「おいおい、お前ら本気か? つい昨日の授業でも言ったぞ。この日に起きたのは、池田屋事件だ。長州の藩士達が───」