想いと共に花と散る









 山南は、少し離れた場所からその光景を見ていた。
 帰還した隊士の数。担ぎ込まれる負傷者。帳簿を片手に、山南はそれらを静かに把握していた。
 そんな中、気が付いた頃には視線は自然と雪へと向かってしまう。
 彼女は、普段と変わらず忙しなく動いていた。水を運び、隊士達に布を渡し、懸命に声を掛ける。
 だが、山南はほんの僅かな違和感を覚えていた。

(……透けている? いや、そんなはずは………)

 気の所為だと想いたいが、どうにもそうとは自分を騙しきれない。
 何がどうなっているのかは不明だが、雪の輪郭が曖昧に見える。
 光の加減だろうか。だが、雪の姿は、何処か背景に溶け込むように見えるのだ。
 気のせいだと切り捨てるには、引っかかりが残った。
 山南は、手にしていた帳簿に目を落とす。指先で頁を捲り、名前を追う。
 近藤。
 土方。
 沖田。
 隊士達の名。
 そして、雪。
 記されているはずのその名に、視線が一瞬躓いた。
 ある。確かに、ある。
 だが、文字を見ているのに、現実との結びつきが弱い。紙の上の存在と、今そこに立つ存在が、噛み合わないのだ。
 山南は名簿を静かに閉じ、眼鏡を外して息を吐いた。

「……疲れているな」

 自分に言い聞かせるように、そう呟く。
 池田屋事件、そして今回の禁門の変と、近頃の新撰組は何かと働き詰めだ。きっと体が疲れてきているのだと自分自身に言い聞かせる。
 前線に立っていないとしてもそう思うくらい、禁門の変は異常なまでに重かった。

(これは、知らせるべきか。……いや、こんなことを公にすれば、どちらの立場も危ぶまれる)

 この違和感を感じているのは自分だけなのか、それとも他にもいるのか、実情は定かではない。
 いつかは問題になりうるだろう。それも、新撰組全体を脅かす大問題に。

「もう少し、様子を見てみましょうかね……」

 山南は、静かに息を吐いた。
 これから起こる変化を、まだ誰も言葉にできないまま。