「そんな所に突っ立ってねぇで、こっち来い」
鬼に連れられてやって来たのは、立派な武家屋敷であった。
現在の京都府京都市中京区にある八木源之助の邸宅、八木邸である。
「す、すみません」
そして相変わらず鬼の怒りを買う。最早、何を言っても機嫌を損ねるだけなのではないかと思ってしまうほど、出会ってから今までで怒鳴られてばかりだ。
短気な鬼は慣れた様子で屋敷の中へと入っていくが、どうにも中に入るのは憚られる。
祖父母の家も古くからある武家屋敷のように大きな家であったが、この屋敷は大きさはあまり変わらずとも何だか纏う雰囲気が違う。
屋敷の入口で立ち止まってしまったのは、その雰囲気に身体が拒絶反応を見せたからだ。
「あれ、土方さん。随分と遅かったですねぇ!」
入口に突っ立って鬼が向ける鋭い視線に刺されていると、場違いなほどに明るい声が二人の耳に届いた。
声が聞こえた方向に目をやると、怪しい笑みを浮かべる青年が玄関口から顔を覗かせている。
パタパタと音を立てて出てきた青年は鬼の元に駆け寄ってから、こちらへと視線を向けた。
「あれ、その娘は……?」
「総司。こいつを連れて近藤さんの所に行ってくれ」
「え? 俺がですか? 土方さんが連れてってくださいよー」
「片付けなきゃならねぇ仕事があるから、俺は後で行く」
総司という名の青年と少し話をした鬼は、一足先に屋敷の中へと消えていく。
変わらず入口に突っ立ったまま呆然としているところへ、青年はやけに楽しげな笑顔を浮かべて近づいてきた。
目の前までやって来た青年は、何を考えているのか分からない笑顔をニコニコと浮かべている。
しばしの沈黙が彼との間に流れていた。
「よかったね、君」
「え?」
「あの土方さんに会って生きてるなんて。そんな怪しい格好をして町中を歩いていたなら、速攻斬られてるからね」
一度は殺されかけたのですが。なんて、喉まで出かかった言葉はぐっと飲み込んだ。
恐らく、この青年はすでに知っている。わざわざ言葉にせずとも、首元にはくっきりと刀傷があるのだから。



