想いと共に花と散る

 追いかけようかと一瞬頭を過ったが、少数とは言え階下には新選組の中でも手練れが揃っている。

(皆……持ち堪えてくれ)

 声を上げて仲間を呼ぶことなどできやしない。たった一人、この二階に残っている志士達を止められるのは近藤だけだ。
 視界の端で何かが鈍く光った。
 打刀よりも短い、脇差が近藤目掛けて振るわれた。その斬撃を受け、室内に金属の擦れ合う耳障りな音が響き渡る。
 
「大人しく縛に就けば良いものを!」

 そう叫ばずにはいられない。
 男が繰り出す斬撃を近藤が受け止め、近藤が放った突きを男が払う。それが何度も繰り返された。
 真剣勝負は一瞬で終わる、とはよく言ったものだが、実際は大嘘だった。
 気が付けば、斬り合いは平行線に入る。互いに息をする頃には、ついに鍔迫り合いとなった。

「お前は、壬生狼の近藤だな」
「かく言う貴様は、宮部鼎蔵か」

 互いに距離を取るために飛び下がった二人は、それぞれが履修した流派の構えを取る。
 近藤は天然理心流、宮部は新陰流。室内で流派など関係ない斬り合いが繰り返されるからこそ、せめても構えで威厳を示したかったというのが共通の想いであった。

「近藤よ!」
「何だ」
「武士の最期の散る様を見たくはないか!」
「武士の最期だと───」

 問い返すよりも先に、畳の上に坐禅を組んだ宮部は上裸になり逆手に脇差を握った。

「その目に焼き付けやがれえええ!」

 宮部は獣のように咆哮を上げると、自身の腹に脇差を突き立てた。
 横一文字に腹を切り裂き、臓物が飛び出そうと叫び声の一つも上げない。
 血塗れの腹を剥き出しにして、血を吐きながらも宮部は近藤を見上げてにやりと笑ってみせた。
 近藤はそんな宮部を唖然として見ていることしかできない。

「介錯を、頼む……」

 最早言葉としては聞こえない掠れた声を宮部は絞り出した。
 刀を握り直した近藤は、静かに宮部の背後に回る。そして、真っ直ぐと刀を振り上げた。

「武士としての最期、とくと拝見させていただいた」

 差し出された首を一刀で切り落とす。
 吹き出す鮮血が近藤の羽織の裾を汚した。しかし、そんなことなどどうでもいい。
 床に転がった宮部の首を見た近藤は、何も言わず部屋を出た。
 未だ池田屋中には怒号が響いている。
 最後の瞬間に見せた宮部の苦痛に染まった笑みが、いつまでも近藤の脳裏から離れなかった。