想いと共に花と散る

 そして、ある夜。
 不意に、屯所の門が荒々しく開かれる音が響いた。
 雪は反射的に身を起こし、部屋を出ると物音のした方へ視線を向ける。
 松明の明かりの中、数人の隊士に囲まれて引き立てられてくる一人の男の姿見えた。
 新選組の隊士ではない。手は縄で縛られ、顔は伏せられている。

「……誰?」

 小さく零した雪の呟きに、答える者はいない。
 男はそのまま奥へと連れて行かれ、障子が閉まる音が重なった。
 それから先、雪の耳に届いたのは断片的な声と、沈黙だけだった。



 ❁



 どれくらいの時間が経ったのか分からない。
 雪は自室の布団の上で蹲り、ただ時間が過ぎ去るのを待っていた。朝になれば、感じるこの恐怖も消えると信じて。
 それから夜が白み始める頃に、ようやく人の動きが収まる。
 微かに変わった屯所の空気に誘われるようにして、夜中に見知らぬ男が連れて行かれた部屋の方へ無意識に向かっていた。
 曲がり角を曲がる前、廊下の向こう側から土方の低い声が聞こえた。姿は見えないが、誰かと共にいるようである。

(……こんな朝早くから何をしているんだろう)

 壁に背を預け、覗き込むようにして曲がり角の先を見る。
 視線の先にはやはり土方がおり、その隣には近藤の姿もあった。

「……吐かねぇ」
「そうか」
「ただ、長州の連中が何やら企んでやがることは掴んだ。会合を開くんだとよ」
「場所は」
「駄目だ。どんだけやっても吐きやしねぇ」

 短い遣り取りだが、漂う緊張感は消えない。
 長くは語らずともそれだけで、十分だったのだ。昨晩、何が起こっていたのかなど雪には知らなくていいことなのだから。
 会話の一始終を聞いた雪は、その場から動けなくなる。
 胸の奥で、何かが静かに音を立てて崩れていった。確実に、何かが壊れていっている音が聞こえる。
 理由は分からない。
 けれど、これがただ事ではないことだけは、はっきりと分かっていた。
 山南が前線から退き、京の闇が濃くなり、新撰組が再び血の道を選ぼうとしている。
 そして、その渦中に自分も立っていることを。