「泣き虫の局長は置いといて、雪……じゃねぇ、雪華の我儘を聞いてやろうや」
そう言うや否や、移動してきた原田は雪華の頭の上に手を乗せる。
ぽんぽんと優しく撫でる様は、何処か雪華を子供扱いしているようだ。
彼らからしてみれば自分はまだまだ子供である事実が悔しく、それでいてこのままの関係が続けばいいとも思う。
「さっきは驚いちまって言えなかったから、改めて言わせてくれ。普段の袴姿もいいけど、着物も似合ってるぜ! 雪華」
「ちょっと恥ずかしいけど……ありがとうございます」
満足したのか頭の上から手を離すと、原田は近藤と井上の元に向かっていく。
未だ泣いている近藤の肩に手を置いて井上と共に慰めに徹した。
そんな様子を眺めていると、珍しく酔った様子の永倉が静かに隣に腰を下ろす。
ぼんやりとした眼差しで近藤達を眺めていた永倉は、少ししてからぽつりと呟いた。
「お前らしいじゃないか、雪華」
「えっ、何か言いましたか?」
「その姿でいるほうが、お前らしくていい」
変わらず永倉との間には縮まらない距離感がある。けれど、決して不快ではなかった。
彼と関わる上では、逆にこの距離感が心地良いのかもしれない。
「雪華君」
次に名前を呼んでくれるのは、己の強さを教えてくれた山南。
「本当に、よくぞここまで付いて来てくれましたね」
「山南さん、私本当に感謝してます。たとえ皆さんと同じ様に刀で戦えないとしても、私だって戦えるって」
「ええ。貴方は強い。その強さを見失わずにいられたら、きっと誰も敵いませんよ」
雪華の強さに山南が敵わないのなら、雪華は山南の大人としての余裕には敵わないのだろう。
いつからか、彼のその余裕に憧れるようになった。
けれど、自分のものにしたいとは思わない。その余裕は、優しさや温もりとして向けられるからこそ意味を成すから。
「雪華」
低く掠れた男の声が聞こえて、雪華は立ち上がる。振り返れば、桜の木に背を預けた土方と目が合った。
誘われるように彼の前に座ると、そっと傷だらけの土方の手が頬に触れる。
「今のてめぇは、いい顔してるよ」
以前はムカつく面と言われたが、今は土方ですら微笑むくらい変われたらしい。
「てめぇはそのままでいてくれ」
柄にもなく屈託のない笑顔を向けるから、自然と笑顔が溢れた。
頬に触れる手に自身の手を重ねて、雪華は三日月のように輝くその目を見つめる。
「変わりませんよ、私は」
変わりたくない、変わるつもりなんてない。今あるこの関係性を覆すことなんてしたくはない。
新撰組の一員であり、土方の小姓であり、志を持って皆と共に戦い続けるのだ。
「雪華君! 私は君に言いたい!」
突然会場全体に近藤の大声が響いて、驚きに満ちた皆の視線が近藤に向かう。
立ち上がって空を見上げる近藤は、目を閉じて深く息を吸った。
そして目を開け、雪華を見つめて穏やかな微笑みを浮かべた。
「我々の誠は、君と共にある」
ずっとその言葉を待っていた。仲間であるという証明をしてほしかった。
「私は、皆さんに付いて行きます。どれだけ激しい戦場でも、遠い場所でも、何処へだって」
信じているのだ。彼らの中にある志とやらを、誠やらを。
難しい話はよく分からないし、ほとんど理解できず置いていかれることもある。
それでも、彼らが目の前で笑うことが答えなのだ。
「新撰組が私の居場所です」
いつか終わる日があるのなら、彼らと共に最後まで抗ってみせる。
近藤の言葉を深く胸に刻み、雪華はそう誓った。



