想いと共に花と散る

 心と静まり返った会場に、桜の木が風によって揺れ、木の葉が擦れ合う音が満ちる。
 誰も何も言わないことに不信感を覚えた近藤が、目を開けて見たのは雪だった。

「じゃあ、雪君。君の我儘を聞かせてくれ」
「えっ!?」

 いきなりそんなことを言われても……。
 そう続けようとした矢先、近藤が向ける視線が一変した。
 酒によって高ぶっていた気分は静まり、微笑みこそ崩さずやけに真剣な雰囲気を醸し出す。

「言ってしまえば、私達は君を巻き込んでしまったんだ。それなのに、今までまともに君の話を聞いてこなかったからな。今日くらい、我儘を聞きたいんだよ」
「そ、そうは言われても……」

 我儘などこれまでに何度も聞いてもらっているではないか。
 御所の警護に付いて行くと宣言した時も、小夜からの誘いに無断で乗った時も、全て雪自身の我儘だった。
 尚且つ、雪は彼らに巻き込まれたなどとは一切思っていない。むしろ、巻き込んでくれたおかげで居場所ができたのだ。
 超が着くほどお人好しな近藤の下に集まったから、今もこの顔ぶれでいられる。

「……なら、一つ良いですか?」
「ああ、何でも言いなさい」
「名前を、呼んでほしいです」

 井上から離れ改めて姿勢を正した雪は、皆の顔を見渡しながら言った。
 ぎこちなく笑う雪は湧き上がる恥ずかしさを隠す。
 雪以外の面々は、そんな雪の様子と言葉が理解できないとばかりに首を傾げていた。

「名前かい? 名前なら、いつも呼んでいるだろう?」
「そうですけど、そうじゃなくて。……今日は男ではなく女として皆さんといるので、名前もそっちがいいなって」

 その雪の言葉の意味を理解できるのは、新撰組の一員として生きる雪のもう一つの名前を知っている近藤と土方だけ。
 すぐに理解した近藤と土方の二人だけが、小さく笑みを落とした。

「そうか。分かった。では、君の名前を教えてくれ」

 初めて彼らと出会った時、かつての少女はこの世の全てし絶望をした顔をしていた。
 浪士に刀を向けられようと、逃げることはせずただ希った。
 殺してほしいと。けれど、それは本心ではなく、何処でもいいから一人で楽になりたかった。

「結城雪華です」

 かつて一人になることを願った少女は、志の下に集まった彼らに囲まれて笑う。
 仲間がいて、変える場所があり、生きる理由を知った。
 一度は死ぬことを望んだからこそ、立ち止まって生きる理由を見つけられたのだ。