想いと共に花と散る

 二人は縋り付く雪を優しく宥めることに尽力する。
 大人の余裕を感じた雪は、余計に甘える様子を見せていた。

「まるで孫のようですね」

 何処からともなく現れた山崎が山南の隣りに座り、井上に縋り付く雪を見ながら言う。
 
「山崎君まで……揶揄うのは良しとくれ」
「いいではありませんか。たまには誰かを甘やかすというのも」
「そうかな」
「そうです」

 恐らく、本心は自分も甘えてみたいなんてところだろう。 
 年若い娘という立場を利用し甘える雪とは違い、山崎は完全裏方の監察方なのである。第一に、人前に出ることすらほとんど無いのだ。 
 単独で行う任務が多いため、時に人の温もりを欲することがあるのかもしれない。

「山崎君、いつも助かっていますよ。ほら、一杯どうぞ」
「え、あ、え、ええっと。……ありがとうございます」

 そんな本心は山南に見破られてしまう。眼鏡の奥の穏やかな瞳に見つめられてしまえば、断ることはできない。
 山南が山崎に、斎藤が土方に酌をし、未だ喧嘩をする藤堂と原田を永倉が止めに入り、沖田は井上に縋り付く雪をつまらなさそうに見つめる。
 何とも馬鹿げていて、けれどただただ穏やかな空間が広がっていた。

「皆、少し良いか」

 一人、普段の血気盛んな様子からは想像できない平和な光景に見惚れる者がいる。
 近藤は愛おしさを一心に込めて、酒が入って赤くなった顔をしながらゆっくりと口を開いた。

「私は、心の底から皆に感謝をしている。お前達がいたから新撰組はここまで来れた」
「何だよ、いきなり」

 酒が入ってポワポワとした顔と声音をした土方が返す。 
 皆の視線が近藤へと向けられ、期待も戸惑いも感じる視線を送った。
 そんな目で見られているとも知らない近藤は、昔話を語るかのように目を閉じて話す。

「一日だけでいいから、こうしてお前達と酒を酌み交わしてみたかったんだ。私はその願いを叶えられて、心底満足しているよ」

 酔っ払っているのか、近藤の目は何処か虚ろで本心なのかそうでないのか判別がつかない。
 けれど、嘘とは誰も思わなかった。
 皆がこうして揃い、酒を酌み交わす時間がずっと続けばいいと思っていたから。

「だが、私ばかり満足してしまうのも忍びない。今日くらいは、お前達も我儘を言え」

 面と向かって我儘を言うように促されてしまうと、人は案外我儘を言えない。
 近藤の言葉に、返事をする者は誰もいなかった。