想いと共に花と散る

 桜吹雪が舞い、雪の視界が薄紅に包まれる。
 次に目を開けた時に広がっていたのは、徒花の如く咲き乱れる誠であった。

「それでは、今日一日は何もかもを忘れて楽しもう!」
『乾杯!』

 皆の盃が交わされ、会場は一気に騒がしくなる。
 この時代、酒を飲める年齢に決まった規定は無いが、雪は酒を飲もうとはせず、ただの水が入った杯を傾けた。
 味などするはずがない水なのに、何故かこの時は美味しいと確かに感じた。

「なあ、雪ー」
「どうしたの、平助君」
「お前さぁ、好きな男とかいねぇの?」
「ごふっ!」

 早くも出来上がった様子の藤堂が近づいてくるなりそんなことを問う。
 雪は、思わず水を吐き出しそうになるが、何とか堪え藤堂を睨め付けた。隣りに座った藤堂は、興味津々といった様子で顔を近づけてくる。
 酒の匂いが鼻腔を擽り、雪は微かに表情を歪めた。

「い、いきなり何聞くの……っ!」
「いやぁ、誰だって気になるだろ。こんな可愛い奴に男の気配が微塵もしねぇんだからさぁ」
「は、はあ!?」

 本当に、こいつは何を言っているんだ!
 酔っ払っていても一応は声を潜めて聞いてきているのに、雪はそんな事お構い無しに叫んだ。
 当然、周りには何の前触れもなく雪が叫んだように見えるため、あられもない疑いを掛けられてしまう。

「おうおう、元気そうじゃねぇか雪。平助がうざかったら、殴ったって良いんだぜ」
「ああ? なんつーこと言うんだよ左之さん」
「はい! そうさせてもらいます!」
「え、雪? ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ! そんな、いやがらせするつもりじゃ、ぎゃあああ!」

 こいつは一度ぶん殴らないといけない。そう本能が叫んだため、相手が藤堂であろうと容赦なく雪は紅潮した頬に平手打ちを食らわせた。
 何とも小気味の良い乾いた音が辺りに響き渡り、藤堂は勢いよく地面に崩れ落ちる。

「平助!? どうした、何があったんだ平助ぇ!」

 酒に夢中で事の成り行きを見ていなかった近藤だけが、頬を抑えて涙目になる藤堂を心配している。
 他の面々は心底呆れた様子で杯を傾けた。

「平助君の馬鹿! 人の気も知らないで! このおたんこなす!」
「うぅ……そこまで言うぅ………?」

 半泣きの藤堂を近藤が抱きかかえ、雪は頬を膨らませて怒りを露わにする。
 一種の漫才のような光景に、沖田と原田は大笑い、山南と井上、山崎は苦笑いを浮かべる。
 その輪から外れた所で斎藤が土方に酌をしていた。