想いと共に花と散る

 着ていた袴を脱ぎ、桜色の着物に袖を通すと、小夜が慣れた手つきでそれを着付けていく。
 袴の重さが無くなった後は、着物に包まれる重厚感を感じた。

「綺麗な色の着物やなぁ」
「総司君達と一緒に買ってあったんだよ。私もこの色が綺麗だなと思って」

 見せられたどの着物も、綺麗な色味をしていた。生地も決して安物ではなく、素人でも手触りの良さは分かった。
 それでも、この着物の色に惹かれたのだ。
 呉服屋の店主にも似合うだろうと言われ、ようやく着られて純粋に嬉しかった。

「はい、できた」
「すごい、袴とは全然違う」
「当たり前やん。作りも色も何もかもちゃうねんから」
「それもそうだね」

 雪は着物の袖を握り、前や後ろを向いて自身の着物姿を確認する。
 畳の上に座っていた小夜は、そんな浮足立った雪の様子を見て苦笑を零した。

「後は髪の毛と化粧やね。簪とか幾つかあるけど、使う?」
「あー……いや、髪はこれを使いたいな」

 小夜の前に座り、雪はいつの日か土方が贈った桜色の結い紐を彼女に見せた。
 手の中を覗き込み、その結い紐を見た小夜はきょとんと首を傾げる。
 土方から贈られた結い紐であることを知らない小夜は、雪が何を思ってそれにこだわるのか想像もできない。

「大事なもんなん?」
「うん。私の宝物」

 宝物なのだ。初めて誰かに形として残る物を贈られた証拠であり、彼の想いの結晶でもあるのだから。
 愛おしさを滲ませた瞳でその結い紐を眺める雪を見て、小夜は小さく笑みを落とした。

「ほな、髪は前に流してまとめよか。落ち着いた髪型するから、化粧は濃い目にせなな」
「流石だね。やっぱり小夜に頼ってよかったよ。ありがと、小夜」

 何気なく呟いたその言葉は、小夜には罪悪感の種でしか無かった。
 そんなことに気づくことのない雪は、自身の髪を触ってどちらの肩に流そうか呑気に考えている。
 背後でその様子を見ていた小夜は、膝の上に置いていた手をぎゅっと強く握った。

「……ごめん」
「え?」
「雪は、うちのことを友達やって言ってくれたのに……。うちは、あんたを酷い目に合わせてしもうた」

 その言葉はずっと震えていて、俯いても泣いているのだとすぐに分かった。
 彼女の演技力は雪自身よく知っている。だからこそ、今流れる涙は本物である気がした。

「謝ったって過去は覆らない。小夜は早川達に肩入れをして、私は早川達にボコボコにされた。でもね、私は小夜に対して恨みの感情なんて一切感じないよ」
「えっ……な、なんで……」
「だって、早川の隣りに立ってた時の小夜、すごく泣きそうな顔をしてたから」

 小夜は早川に脅されていただけ、雪との親密な関係に付け入られただけなのだと。
 雪は本気でそう信じていた。小夜が裏切るはずはない、裏切ったとしても、それは彼女の本心ではないと信じるのだ。

「友達なんだから、信じるのは当たり前でしょ?」
「……っ、う……雪、雪ぃ……」
「あははっ、小夜、子供みたいだよ」

 根っから雪を裏切るつもりであったのなら、この涙が流れることはない。
 雪は抱きついて泣きわめく小夜の背を撫でながら、友達という存在の温かさに笑っていた。

「これで、仲直りだね」