想いと共に花と散る

 そうして、あっという間に新選組全体に休日が訪れた。

「えーっと、必要なものは……」

 まだ頓所の中が寝静まっている頃、雪は風呂敷に荷物をまとめていた。
 
「今日くらいはいいよね」

 そう小さく呟き、雪はとある物を風呂敷で包む。
 とある物というのは、雪が土方達と出会ったばかりの頃に呉服屋で買った桜色の着物である。
 いつかその着物を着た姿を皆と呉服屋の店主に見せたいと長らく願っていた。
 それが今日叶おうとしているのだ。
 今日一日は、新撰組ではなく、ただの同居人のような形で皆は出掛ける。だからこそ、この着物を着る絶好の機会であった。

「それじゃあ、お先に行ってきます」

 風呂敷を抱えた雪は、まだ太陽が顔を出しきっていない明け方に屯所を出る。
 皆と共に花見会場へ行けば良いのだが、雪は一つ悪巧みをしていたのだ。
 雪が向かうは、町の中にある小さな甘味処。まだ営業時間を迎えていない店の前には、長らく顔を見せていない友達の姿がある。

「小夜」
 
 短く声を掛ければ、背を向けていた小夜はビクリと大きく身体を震わせた。
 恐る恐る振り返った小夜と目が合い、雪はひらひらと手を振る。

「ゆ、雪? どうしたん、こんな朝早くに」

 未だ、彼女の中には辻斬りの一件での罪悪感でも残っているのだろう。
 浮かべる笑顔は何処か引き攣っており、無理矢理笑っているという印象だ。
 それでも、雪は何気ない様子で彼女に近寄った。

「これから新撰組の皆で花見に行くの。それで、着物の着付けを手伝ってほしくて」

 小夜と親密な関係になれたきっかけは、雪が男をフリをするために用意した袴の着付けを教わったことだった。
 一度は崩れてしまった関係。けれど、友達となれた時と同じように着付けを通せば、また関係を取り戻せると思った。

「……ええよ」

 そう言って小夜は雪を店の二階へと連れて行く。中に入れば、袴の着付けを教わった時と同じ部屋があった。

「さっき、着物の着付けや言うてたけど、なんで着物?」
「今日はお仕事じゃなくて休みだからさ。一日ぐらい、おしゃれしても許されるかなって」

 雪は小夜の前に置いていた風呂敷を開ける。中には、沖田と藤堂と共に買った桜色の着物が入っていた。
 その着物を見て小夜は目を輝かせる。彼女もまた年頃の娘であるため、こういった代物には目がないのだ。
 ぎこちない空気が少し和み、二人は微かな笑みを浮かべた。