想いと共に花と散る

 事前に顔を合わせていた藤堂と斎藤は何食わぬ顔で座っている。
 
「お、お、起きてる……」
「幽霊じゃぁ、ねぇよな?」

 あわあわと身体を震わせながら雪を見るのは、隣り合って座っている原田と長倉。
 
「………ぁ………」

 ぽかんと口を開けたまま微動だにしないのは、雪のすぐ傍に座っている沖田。

「元気になったようで良かった」
「目を覚まさないかと思いましたが、一安心ですね」

 年長者らしく穏やかな調子を崩さない井上、心底安心した様子で眼鏡を直す山南。

「おお! 雪君、元気そうで何よりだ!」

 そう言って豪快に笑うのは、皆の中心にいる近藤。

「…………」

 何も言わず見つめてくるのは、土方。

「ご、ご心配おかけしてすみませんでした!」

 首が千切れるのではと思うほど勢いよく頭を下げた雪の声が部屋に響き渡る。
 長らく沈黙が辺りを満たし、不安になった雪は顔を上げ、ぎこちない笑顔を浮かべた。

「君も一隊士なのだから、遠慮せず心配かけていいさ。ほら、雪君も座るといい。久々に皆が揃っての朝だからな」
「は、はい」

 何とも言えない気まずい空気が流れようとしている時に、機転の効いた近藤の一言で場の空気は和む。
 定位置と言える土方の隣には、当たり前のように雪の分の朝餉が用意されていた。

「さあ、雪君も無事に目覚めたことだし、まずは腹ごしらえをしよう」

 どれだけ暗い雰囲気に包まれようと、近藤の一言は良いようにも悪いようにも場の空気を変えてしまう。
 この時の一言は、場の空気を和やかで穏やかな“良い空気”に変えた。
 皆が朝餉に箸を付けたのを確認し、雪も温かい味噌汁を啜った。

「……皆に、一つ提案があるのだが」

 和んだ空気の中で皆が箸を進める中、近藤の明るくも何処か白々しい声が上がる。
 箸を止め、近藤を見る皆の顔には不信感が滲んだ。

「来週末、新選組全体を手控えの日として皆で何処か出掛けないか?」
 
 それは突拍子もない提案で、皆の顔には「何を言っているんだこの人」とはっきりと浮かんだ。

「ここんところ、ずっと働き詰めで隊士達も息抜きの時間が欲しいはずだ。神経を削られるような時間が続けば、いつか倒れる者も出るかもしれない。そこでだ。丸一日任務を無くし、一般隊士は向きに過ごさせ私達は花見にでも行くのはどうだ?」

 まるで皆の隊長を気遣う局長らしい言葉に聞こえて、ただ自分が花見に行きたいだけだという考えがありありと溢れている。
 この提案に乗っかるとすれば、藤堂と原田くらいのもの。
 それ以外の面々は、呆れた様子で頭を抱えていた。