「だが、本当の理由は違ったらしい。師匠が俺にこの首巻きを渡したのは、いつも薄着で凍えていた俺が寒がらなくても済むようにするためだったのだ。俺がそんな師匠の気遣いを知ったのは、師匠が亡くなってからだった」
師匠の教えをいつまでも信じ、守ってきた彼が本当の意味を知ったのは、悲しくも再び孤独になってから。
教えと、気遣いと、師の最期を忘れぬために、彼は首巻きを身に着け続けたのだ。
「俺は呪いとして、この首巻きを着け続けた。しかし、あの夜に手放してようやく分かった」
斎藤一という男の素性は計り知れない。新撰組の中でも、彼の素性を知っている者は少ないだろう。
恐らく、彼がここまで己の過去を口にしたことは少ない。
そんな彼が雪に過去を語ろうと思ったのは、雪に首巻きを貸して手放したからこそ気づけたものがあったからだ。
「冬であろうと、俺はもう凍えなくてもいいのだと。首巻きが無くたって、俺に温もりを与えてくれる者がここにはいる。そして、それに気づかせてくれたのは、雪、お前だ」
ずっと役に立てていないと嘆き、心無い者達から存在を否定された雪にとって、その言葉は何よりも温かかった。
「誰がなんと言おうと、俺達はお前を信じている。だから、お前も自分を信じろ」
「……斎藤、さん」
「そろそろ朝餉もできた頃だろう。暖かくなってきたとは言え、朝はまだ冷える。早く来い」
「はい!」
物干し竿に首巻きを掛け、雪は斎藤の後を追って屋敷の中に戻った。
屯所が前川邸に移ってからというもの、以前は八木邸の離れで全隊士と共に摂っていた食事が、小さな一室で幹部だけが集まり摂るようになっていた。
人数が減り寂しくはなったが、それでも皆で食事をする時間は心地が良い。
雪は久方ぶりに顔を見る幹部達がいるであろう部屋の前に立ち、深く息を吸った。
(入ったらまずは頭を下げる。屯所を抜け出したことと、迷惑をかけたことを謝った後……助けてくれたお礼を言わなきゃ)
緊張で暴れる心臓を押さえつけながら、雪は障子に手を掛ける。
ゆっくりと開けば、中からは人の気配と朝餉の香りが雪の身体を包んだ。
「……おはようございます」
恐る恐る声を掛けると、中にいた幹部達が一斉に雪の方へと向き直った。



