想いと共に花と散る

 しばしの沈黙の後、藤堂は力なく雪の肩から手を離す。
 何処か腑に落ちていない様子ではあるが、微かな笑みを浮かべるのは彼なりの優しさだろう。

「……雪がそう言うんなら、俺は何も言わない。友達は、大事にしたいもんな」
「うん!」

 どれだけ藤堂が悲しげな表情を浮かべても、雪がそれに気づくことはない。
 ただ、自分の思いを認めてもらえた喜びに無邪気な笑顔を見せるだけだった。

「元気そうだな。お前、ずっと寝てて腹減ったんじゃねぇか? 今日は総司が朝餉担当なんだよ。早く行かねぇと無くなっちまうぜ」
「言われてみれば、お腹空いたなぁ。これを洗ったらすぐ行くよ」
「そっか。じゃあ先に行って雪の分も用意しといてもらうよ」

 そう言って立ち上がった藤堂は、厨に向かって駆け出す。変わらず忙しない彼を見て、雪はようやく戻ってきた日常に笑みを零した。

「……雪」
「あ、斎藤さん。行かなくていいんですか? 朝餉無くなっちゃうかもしれませんよ」
「いや、別にいい。それよりも、今洗っているそれ……」
「この首巻き、止血のために貸してくれたんですよね。血で汚してしまったので、洗って返そうかと思って」

 完全に藤堂の勢いに乗せられて忘れていたが、雪は斎藤の首巻きを洗うために庭にいたのだ。
 早く終わらせて、皆の所に謝りに行かなくてはならない。
 雪は慌てて桶の中に手を入れ、首巻きを洗い始める。
 しばらく様子を見ていた斎藤だが、やがて傍に屈むと雪の手に触れて制する。

「構わん。それはもう、俺には必要のないものだ」
「でも、大切なものなんじゃないんですか?」
「大切だった、と言えば聞こえはいい。だが、実際は囚われていただけだ」

 斎藤はそう言いながら、雪の手から首巻きを取る。
 ビショビショになった首巻きを見て、斎藤は静かに目を閉じた。

「俺は、孤独に生きていた。満たされず、認められず、いつも何かに飢えていたんだ。そんな俺に、剣を教えてくれた師匠がいた。師匠が、“首は急所となる”と言ってこの首巻きを渡してきたから、俺はずっと肌見放さず身に着けた」

 再び開かれた瞳には、過去を懐かしむ微かな悲しみが滲む。
 雪は首巻きを手放して、静かに彼の話に耳を傾けた。