想いと共に花と散る

 目を覚ました頃には、すでに季節が一つ進もうとしていた。
 ぼんやりとした視界に映るのは、屯所の一室の天井。最後に眠ったのはいつだろうかと記憶を辿ると、小夜と町に行った日の夜から何も思い出せなかった。

「………どれくらい、寝てたんだろう」

 ゆっくりと身体を起こすと、あれだけの傷もほとんど治っている。
 長らく横になっていたせいで頭痛はするが、横腹の痛みも額の傷も無くなっていた。

「あ! 仕事!」

 傷の確認を終えると、次に思い出すのは小姓としての仕事のことだ。
 土方の小姓となってから、隊士達の身の回りの世話をするのは雪の仕事になった。雪を中心に他の隊士が日替わりで手伝うという体制がなされているのだ。
 しかし、季節が一つ進むほどに眠っていたのであれば、その仕事を今まで放置していたことになる。

「は、早く行かないと……っ………」

 勢いよく立ち上がろうとすると、ぐらりと目眩が襲う。
 起きたばかりで身体が鈍っているようだ。膝に手を着き立ち上がると、やはり頭が痛む。
 
「あ、これ……斎藤さんの、首巻き?」

 枕元に置かれていた着物に手を伸ばすと、その隣に普段斎藤が身につけているはずの首巻きが置かれていた。
 曖昧な記憶だが、早川達に襲われあっとに土方達が駆けつけ、額の傷の止血のために巻かれた気がする。
 手に取って広げると、首巻きには生々しい血液がべっとりと付着していた。

「大切なものなのに、汚しちゃった……洗って返さないと」

 早く着替えて土方達の元に行こうかと思っていたが、まずはこの首巻きを洗わなければならない。
 雪は藍色の袴に着替え、髪を一つにまとめると首巻きを抱えて部屋を出た。
 少し前まで外に出れば耐え難い寒さが襲ってきたのだが、今は微かな温かさを感じる。
 それだけ長い間眠っていたのだから、あの夜の出来事は雪にとって大きな衝撃となったらしい。

(久々だな……。こうして外に出るの)

 目まぐるしく移ろう日々に翻弄される毎日が続いていたから、こうして穏やかな朝を迎えたのは随分と久々だった。
 庭に下り立ち、井戸から水を汲み上げ桶に入れると、いつも洗濯をする定位置に向かう。
 地面に置いた桶の中に首巻きを入れ、ひたすら汚れを落とすために擦った。