想いと共に花と散る

 思えば、初めてその姿を見た時からこの想いは生まれていたのかもしれない。
 見慣れない着物を着ていて、泥だらけの足で立っていて、首に刀傷を負ってもなお涙一つ見せなかった一人の少女。
 この世の全てに絶望したような、光のない目で見てきていたのに、今では何気ないことのように笑う。
 
「俺はね、君が君らしく笑っている瞬間が好きなんだ。見ているこっちも、笑えるから」

 初めこそ、自身が慕う近藤が匿うと言ったからそれに従っただけだった。
 けれど、今では新撰組(ここ)から出したくないと思っている自分がいる。
 独占欲に似た、我儘のような感情。気持ちが悪くて不愉快なはずなのに、自分自身に嘘を吐いてまで隠したいとは思えなくて。
 一度だけでいいから、その笑顔を自分だけに向けてほしいと願ってしまった。

「なんて、自分勝手がすぎるか」

 いつもそうだった。
 吐き出したいと思っても、結局はその本心を自分で笑って何処かに飛ばしてしまう。
 そうして、今まで数え切れないほど後悔してきたというのに。

(俺はただ……本当の君を知りたいだけなんだよ。ねえ、雪。君は何処から来たの? 君は一体、誰なの?)

 肝心な想いは言葉にできず、心の奥底に蓋をする。
 もしも、自分の抱く想いを包み隠さず伝えることができていれば、今頃違う未来があったのだろうか。
 自分自身を偽ること無く、着たい着物を着て傍にいたいと願う人の傍にいられる世界。
 そんな世界があれば、もっとその笑顔を見られたのかと思うと、兎にも角にもやるせなかった。

「……好きなのにな」

 嗚呼、そうか。

「そっか、俺……好きなんだな」

 橋の下でボロボロに傷ついた雪を見て、腹の底から湧き上がる怒りを感じた時。
 初めて自分が作った料理を誰かに褒められて、雪が自分のことのように喜んだ時。
 雪の姿が目に入る度に感じた得体のしれない胸を刺す痛みは、無意識の内に心を割いてしまったから襲ってきたのだ。
 それに気付いてしまった今、沖田の手は雪の長い黒髪へと伸びる。
 後少しで触れる、その時だった。

「……土方……さん……」

 眠っているはずの雪が、掠れた声でその名を口にした。
 それが全ての答え。一人の人間に抱いた想いが一生報われないと定まった瞬間になる。
 沖田は一瞬、目を伏せる。そして、いつものように笑った。

「……ほんと、ずるいなぁ」

 それ以上、何も言えなかった。
 自分には彼女を幸せにできない、そう思い知ってしまったから。