想いと共に花と散る

 ゆっくりと顔を上げると、視界を遮っていたのは一人の男。

「なんや、その身なりは」

 低く押し殺した声で呟いた男は、腰に下げていた長細い棒状の何かに右手を掛ける。
 それが刀であると理解した頃には、すでに切っ先を首筋に当てられた頃であった。

「見慣れん着物……貴様、異国人か?」

 異国人……?
 いや、自分は日本人ですが。と言い返そうとしたが、口を開こうとした時に辺りの空気が一変した。
 突然、左右から目の前の男とは別の男達が現れる。彼らもまた刀を握り締め、じりじりと距離を縮めてきた。

(え、ちょっと待って……これ、まさか私殺されるっ?)
 
 ただの女子である自分が三人の男相手に勝てるはずもない。ましてや刀を持っているとなれば尚更だ。
 これは絶体絶命のピンチ、というやつだろう。

「ちょうどいい。近頃島原に行く金もなくなってきたからな。少々遊ぼうか」
「変な格好してやすが、金が掛からねぇなんて今日はツイてやすねっ」

 何がツイていると言うのだ。
 刀を下げて、女子に向けて、何を楽しんでいるというのだこの男達は。

「ほれ、早く脱がんか」
「……や」
「それか選ばせてやろう。ここで脱ぐか、ここで斬り殺されるか」

 ズキンと頭に痛みが走った。
 斬り殺すとは、今首筋に当てているその刀で何度も斬り掛かってくるということだろうか。
 男に向けていた視線をゆっくりと下ろし、月明かりを反射する刀に向ける。
 
(綺麗な刀……これなら、簡単に斬れそう)

 一振りでもすれば簡単に腕の一本や二本落とせそうである。

「おい、聞いておるのか? さっさと答え────」
「殺して」

 勢いよく顔を上げ、刀を向けられている状況に顔色の一つも変えずに告げる。
 自分でも何を言っているのか分からなかった。ただ無意識の内に、一番最初に思いついた言葉を口走る。

「その綺麗な刀で、私の醜い部分を斬り刻んでよ」

 もう一度、次は念を押すように強く声を張る。
 一歩目の前の男に近づけば、首筋に赤い一線ができた。刀からも首筋からも鮮血が滴り降りる。
 それでも男から目は離さなかった。痛みなんて、恐怖なんて感じない。
 
「私、死にたいの」

 それは嘘偽りのない本心。
 ずっと心の内に秘めていて、決して表に出すことのなかった想いであった。