どれほど歩いたのか、気が付くと二人は静かな河原まで来ていた。
冬の河原は凍えるように冷える。雪は腕を擦りながら、数歩先を歩く小夜を見た。
「小夜、行きたい所ってここなの?」
返事はない。その代わり、徐ろに立ち止まった小夜はゆっくりと振り返った。
穏やかな微笑みを浮かべている小夜を見て、雪はほっと胸を撫で下ろす。ずっと何も言わないから、隊長でも悪いのかとも思ったが心配はいらないようだ。
何だか小夜の態度がもどかしく感じ、雪は笑みを一つ落とすと小夜の元へと駆け寄った。
――と、その時。
「……っ!?」
突然、背後から荒い足音がした。それも一人ではない、複数人の足音が何重にも重なる。
背後から突き刺すような悪寒、それが殺気だと気付いた頃にはすでに囲まれていた。
振り返る間もなく、小夜の肩を誰かが強く掴む。
「きゃっ……!」
小夜の悲鳴が聞こえ、雪は咄嗟に周囲に視線を配る。
それまで二人きりの静寂があったかと思われたが、辺りが修羅場と化すのは一瞬のことであった。
何処からともなく刀を数人の男が現れ、雪と小夜を囲む。
彼らは明確な殺気を二人に向けていた。
「な、何……!」
雪の背筋が凍りつく。嫌な冷や汗が吹き出し、ぐらりと視界が歪んだ。
しかし、目の前で今にも襲われようとしている小夜を見ると情けなくも意識を失うわけにはいかない。
彼らが刀を向ければ、身体は反射的に動いていた。
「やめて!」
雪は強く地を踏み締めて駆け出し、小夜の方を掴む何者かの手を振り払う。
すぐさま小夜を背に庇い、目の前に立ち塞がる男を睨め付けた。
「私の友達に……小夜に、手を出さないで!」
言葉にすると、不思議と恐怖が消える。足の震えが止まり、荒れていた心の臓の動きも一定に戻った。
こういう時、土方達のように刀の一振りや二振りでも持っていればこんな状況からもすぐに抜け出せたことだろう。
しかし、そんな事を考えても後の祭りでしかない。
今最優先するべきは、いかに彼らと戦わずにここから逃げ出す方法を考えることだ。
「小夜、今ここから逃げる方法を考えるから。だからもう少しの辛抱……」
その瞬間だった。背後にいるはずの小夜を安心させるため、振り返ってそう言おうとしたその時。
小夜は離れた所で、それまでいなかったはずの謎の男と隣り合って立っていた。
「……いい役者だな」
聞き覚えのある声。記憶の中を辿り、その声の主を思い返す。
闇に慣れ始めた目で少しずつ辺りの輪郭が明確なものになった。だからこそ、雪は一歩後ずさる。
雪はその目ではっきりとその姿を捉えた。そして、恐怖のあまり息を呑む。
「……貴方は……」
小夜の隣で薄っすらと不気味な笑みを浮かべるその男は、昼時に雪へ手紙を届けた平隊士であったのだ。
冬の河原は凍えるように冷える。雪は腕を擦りながら、数歩先を歩く小夜を見た。
「小夜、行きたい所ってここなの?」
返事はない。その代わり、徐ろに立ち止まった小夜はゆっくりと振り返った。
穏やかな微笑みを浮かべている小夜を見て、雪はほっと胸を撫で下ろす。ずっと何も言わないから、隊長でも悪いのかとも思ったが心配はいらないようだ。
何だか小夜の態度がもどかしく感じ、雪は笑みを一つ落とすと小夜の元へと駆け寄った。
――と、その時。
「……っ!?」
突然、背後から荒い足音がした。それも一人ではない、複数人の足音が何重にも重なる。
背後から突き刺すような悪寒、それが殺気だと気付いた頃にはすでに囲まれていた。
振り返る間もなく、小夜の肩を誰かが強く掴む。
「きゃっ……!」
小夜の悲鳴が聞こえ、雪は咄嗟に周囲に視線を配る。
それまで二人きりの静寂があったかと思われたが、辺りが修羅場と化すのは一瞬のことであった。
何処からともなく刀を数人の男が現れ、雪と小夜を囲む。
彼らは明確な殺気を二人に向けていた。
「な、何……!」
雪の背筋が凍りつく。嫌な冷や汗が吹き出し、ぐらりと視界が歪んだ。
しかし、目の前で今にも襲われようとしている小夜を見ると情けなくも意識を失うわけにはいかない。
彼らが刀を向ければ、身体は反射的に動いていた。
「やめて!」
雪は強く地を踏み締めて駆け出し、小夜の方を掴む何者かの手を振り払う。
すぐさま小夜を背に庇い、目の前に立ち塞がる男を睨め付けた。
「私の友達に……小夜に、手を出さないで!」
言葉にすると、不思議と恐怖が消える。足の震えが止まり、荒れていた心の臓の動きも一定に戻った。
こういう時、土方達のように刀の一振りや二振りでも持っていればこんな状況からもすぐに抜け出せたことだろう。
しかし、そんな事を考えても後の祭りでしかない。
今最優先するべきは、いかに彼らと戦わずにここから逃げ出す方法を考えることだ。
「小夜、今ここから逃げる方法を考えるから。だからもう少しの辛抱……」
その瞬間だった。背後にいるはずの小夜を安心させるため、振り返ってそう言おうとしたその時。
小夜は離れた所で、それまでいなかったはずの謎の男と隣り合って立っていた。
「……いい役者だな」
聞き覚えのある声。記憶の中を辿り、その声の主を思い返す。
闇に慣れ始めた目で少しずつ辺りの輪郭が明確なものになった。だからこそ、雪は一歩後ずさる。
雪はその目ではっきりとその姿を捉えた。そして、恐怖のあまり息を呑む。
「……貴方は……」
小夜の隣で薄っすらと不気味な笑みを浮かべるその男は、昼時に雪へ手紙を届けた平隊士であったのだ。



