想いと共に花と散る


「お二人、可愛らしいから特別にその二つあげますわ」
「え? あ、あげるって……そんな、悪いです」
「ええよええよ。可愛らしいねっくれすは、可愛らしい人に着けてもらえてこそやからな」

 そう言って、店主は皺だらけの手で二人に首飾りを手渡した。雪は細い鎖に浅葱色の宝石がはめ込まれたネックレスを、小夜は同じような鎖に紺碧色の宝石がはめ込まれたものを受け取る。

「大事にしたってな」
『はい!』

 露店の前から立ち上がり、二人は市場を出ると人気のない路地に入った。
 一本大通りから外れると途端に辺りは静まり返る。遠くで人々の騒がしい声が聞こえるが、それも自分達には関係のないこと。
 路地に入り一息吐いた二人は、露店で受け取った首飾りを手にする。
 それを互いの首に着け合い、再び向き合うとこの世の軋轢を振り払うように笑った。

「似合うてんで!」
「小夜も」

 今日だけで何度こうして笑ったか分からない。
 新撰組の面々といる時も笑う場面は多々あったが、ここまで気兼ね無く口を開けて笑ったのは初めてだ。
 友達と遊ぶ。口を大きく開けて笑う。誰かと一緒にご飯を食べに行く。
 一見、なんてことのない時間のようでいて、雪にはこれほどない幸福の時間であった。

(……楽しかったな)

 今日は本当に楽しかった。初めてできた友達と初めて出かけたのだから当然である。
 空を見上げれば、すっかり日が暮れていた。そろそろお開きの時間だろう。

「暗くなっちゃたね。そろそろ、帰ろっか」

 路地から出てもう一度空を見上げると、小さな星々が数え切れないほど浮かんでいた。
 小夜を呼ぶ為に振り返ったが、どういうわけか小夜は路地の真ん中に立ち止まったまま俯いている。
 もう一度声を掛けるが返事はない。不審に思い、雪は一歩小夜へと近づいた。
 その時、勢いよく小夜が顔を上げた。突然のことで雪は無意識の内にその場に立ち止まる。

「ねえ雪、行きたい所があるんやけど」
「行きたい所?」
「うん。すぐ近くやから」

 小夜はそう言うと動き出し、雪の傍を通り過ぎて路地を出ていく。
 慌てて雪は彼女の背を追いかけた。人通りは次第に減り、町の喧騒が遠退いていく。

(小夜、どうしたんだろう……なんで、行き先を言わないの?)

 何だか様子がおかしい。行き先を言わず、ただ先を歩くだけで一言も話そうとしない。
 不信感が拭えないが、それでも雪は小夜に付いて行った。