会議が終わり、皆が座敷を出るのを見習って雪は自室へ戻った。
いつもと変わらぬはずの廊下が、何処か遠く感じる。下を向けば、自分の足が自分のものでないように上手く動かせなかった。
壁に手を付きながらゆっくりと廊下を進む。一歩を踏み出すごとに、心臓が重く脈打つ。
曲がり角を曲がり突き当りの部屋が見えたその時、後ろから声が掛かった。
「もし、そこの隊士。少しいいか」
耳馴染みのない男の声だ。日頃からよく耳にする幹部達のものではない。
呼び止められて反射的に振り返ると、一般隊士にしては随分と体格の良い男が立っていた。
目が合ったことで、雪は自分が呼び止められたのだと理解する。
隊士は重々しい足取りで近づき、雪を光のない目で見下ろした。
「町の者からのようだ」
そう言って、隊士は何処からか取り出した手紙を差し出した。
不審に思いつつも、雪はその手紙を受取る。
受け取った瞬間、雪の胸が跳ねた。宛名によく知る人物の名前が書かれていたからだ。
「……小夜……」
指先が僅かに震える。初めて彼女から手紙を贈られて、戸惑いを隠せなかった。
隊士がその場を去ったことを確認すると、雪はすぐそこの自室へと飛び込む。
辺りに誰かいないことを確認し、静かになった時に封を開いた。
あまり嗅いだことのない墨の匂いを感じながら、羅列された文字に目を落とす。
『雪へ。もし時間があれば、一緒に町へ行きませんか。 この間は、何だか暗い雰囲気になってしまったから、次は楽しむために。無理なら、断っても大丈夫だから。店で待っています』
何事かと思って身構えながら読んだが、内容はただ遊びに行かないかという誘いである。
会議の時から感じていた緊張が一気に解け、雪は思わずその場に崩れ落ちた。
(……初めてだなぁ。友達と遊ぶのなんて)
元の時代で一人も友達ができないまま生きてきた雪にとって、小夜は初めての友達である。
ずっと憧れていた友達からの誘いは、純粋に嬉しいものだった。
しかし、そんな楽しい気分はすぐに打ち破られる。
脳内で土方が会議で言った忠告の言葉が蘇ったのだ。
『だが雪、お前もだ。不用意に町へ出るな。何かあれば、必ず報告しろ』
彼のその言葉は、雪の身を案じて言ったものであると理解している。
それでも、雪の頭は小夜からの誘いに埋め尽くされていた。
「……少しだけなら」
そう呟いて、雪は手紙を襖の中に仕舞っている布団と布団の間に隠した。
いつもと変わらぬはずの廊下が、何処か遠く感じる。下を向けば、自分の足が自分のものでないように上手く動かせなかった。
壁に手を付きながらゆっくりと廊下を進む。一歩を踏み出すごとに、心臓が重く脈打つ。
曲がり角を曲がり突き当りの部屋が見えたその時、後ろから声が掛かった。
「もし、そこの隊士。少しいいか」
耳馴染みのない男の声だ。日頃からよく耳にする幹部達のものではない。
呼び止められて反射的に振り返ると、一般隊士にしては随分と体格の良い男が立っていた。
目が合ったことで、雪は自分が呼び止められたのだと理解する。
隊士は重々しい足取りで近づき、雪を光のない目で見下ろした。
「町の者からのようだ」
そう言って、隊士は何処からか取り出した手紙を差し出した。
不審に思いつつも、雪はその手紙を受取る。
受け取った瞬間、雪の胸が跳ねた。宛名によく知る人物の名前が書かれていたからだ。
「……小夜……」
指先が僅かに震える。初めて彼女から手紙を贈られて、戸惑いを隠せなかった。
隊士がその場を去ったことを確認すると、雪はすぐそこの自室へと飛び込む。
辺りに誰かいないことを確認し、静かになった時に封を開いた。
あまり嗅いだことのない墨の匂いを感じながら、羅列された文字に目を落とす。
『雪へ。もし時間があれば、一緒に町へ行きませんか。 この間は、何だか暗い雰囲気になってしまったから、次は楽しむために。無理なら、断っても大丈夫だから。店で待っています』
何事かと思って身構えながら読んだが、内容はただ遊びに行かないかという誘いである。
会議の時から感じていた緊張が一気に解け、雪は思わずその場に崩れ落ちた。
(……初めてだなぁ。友達と遊ぶのなんて)
元の時代で一人も友達ができないまま生きてきた雪にとって、小夜は初めての友達である。
ずっと憧れていた友達からの誘いは、純粋に嬉しいものだった。
しかし、そんな楽しい気分はすぐに打ち破られる。
脳内で土方が会議で言った忠告の言葉が蘇ったのだ。
『だが雪、お前もだ。不用意に町へ出るな。何かあれば、必ず報告しろ』
彼のその言葉は、雪の身を案じて言ったものであると理解している。
それでも、雪の頭は小夜からの誘いに埋め尽くされていた。
「……少しだけなら」
そう呟いて、雪は手紙を襖の中に仕舞っている布団と布団の間に隠した。



