想いと共に花と散る

 自分の隊から組織全体の存在を危ぶませる裏切り者を出してしまった責任が、沖田に重く伸し掛かる。
 彼は決して、そんな罪悪感に似た感情を表に出すことはしない。
 しかし、無理矢理作った貼り付けた笑みを浮かべているのは、根底にある感情を隠すためのもの。
 その本心はこの場にいる誰にも打ち明けられることはない。

「総司」

 先ほどの鋭い声音とは違い、何処か柔らかくなった土方の声が沖田の名を呼ぶ。
 沖田へと向けられた土方の瞳には、確かな覚悟と怒りが滲んでいた。
 声音と視線の差異に雪は思わず身震いする。

「お前の隊から出た不始末だ。どう責任を取る」
「……逃げませんよ」

 新撰組の副長として、土方の判断は真っ当なものだ。そして沖田の返答も、一番隊組長としてあるべき姿である。
 まだ組長になってから日が浅いはずなのに、沖田も他の幹部達もその役の責任を重く受け止めていた。
 そんな沖田は土方から視線を伏せずに答える。

「全て明らかになれば、処罰は甘んじて受けます」

 真っ直ぐとした沖田の言葉は、雪の心の奥底を一線に貫いた。
 部下の責任は上司の責任。これはどの時代であっても覆ることのない暗黙の了解だ。
 考えずとも、沖田にはその責任に見合った処罰が下される。雪にはそれが不安でならなかった。
 しかし、そんな雪の不安など誰にも関係ない。
 沖田の返事を聞いた土方は、静かに短く頷いた。

「今はまだ動かない。早川は泳がせる。証拠を揃えるためだ」

 土方のその言葉に、雪は思わず口を開いた。

「……それまでに、被害が増えることはないんでしょうか?」

 この場にいる者の視線が一斉に雪へ向く。だが、誰もそれを咎めなかった。
 永井が計画を露見したことは、恐らく主犯の早川にも伝わっている。
 雪が抱く懸念は誰しもが持ち得るものであった。

「防ぐ。出来る限りな」

 土方は眉間に寄せていた皺を少し緩め、雪を見据えて言った。
 その一言だけで、雪の不安はほんの少し和らぐ。
 しかし、雪がほっと胸を撫で下ろそうとした矢先、再び土方の瞳に鋭い光が宿る。

「だが雪、お前もだ。不用意に町へ出るな。何かあれば、必ず報告しろ」
「……分かりました」

 雪は、そう答えるしかなかった。感じている不安を言葉にできないまま、静かに頷く。
 最終的に会議ではそれ以上深入りせず、散会となった。
 誰もがそれぞれに不安を抱えたまま。
 そして、誰もまだ――……この後起こることを、止められなかった。